2026年5月20日
マーケティングAIに「言わなくてもわかる」は通じない 曖昧な指示がハルシネーションを招く理由
仕事の現場には、「言わなくても伝わるだろう」「前後を見ればわかるだろう」「行間を読め」といった指示の出し方が、長く当たり前のように残ってきました。上司の頭のなかにある完成形を、部下が空気を読みながら組み立てていく。同じ部署で長く仕事をしてきた相手には、なんとなく通ってしまう頼み方です。
ところが、同じやり方を生成AIに持ち込むと、うまくいきません。AIは人のように職場の温度を読みませんし、過去のやり取りから意図を察してくれるわけでもありません。与えられた言葉と条件をもとに答えを組み立てるため、指示があいまいだと、その空白を推測で埋めようとします。
ここで出てくるのが、ハルシネーションと呼ばれる現象です。AIは「わかりません」と素直に返すよりも、なんらかの答えを返そうとする傾向を持ちます。試験のとき、わからない問題を空欄にするよりも、とりあえず書いておけば部分点がもらえるかもしれないと考える受験生の発想に近いものです。正解に届いていなくても、もっともらしい文章が並ぶぶん、読み手は間違いに気づきにくい。ここが、実務でAIを使うときの見えにくいリスクになります。
つまり、行間を読めと言い続けた一昔前の上司の頼み方と、部分点狙いでなにかしら書き込もうとする受験生の発想が重なったとき、AIの出力はもっとも危うい状態になります。曖昧な依頼に、それらしい答えが返ってくる。見た目は整っているのに、中身が確かではない。この組み合わせを避けることが、AI活用の土台になります。
生成AIを便利な道具として使いこなすには、モデルの性能ばかりを見ても十分ではありません。利用者側が、どの条件で、なにを、どう答えてほしいのかを言葉に整えること。ここがすべての出発点になります。長々と書くことが大切なのではなく、目的、条件、根拠、答え方を整理して、誤解の余地が少ない形で伝えることが大切なのです。
ここでは、AIに「言わなくてもわかる」が通じない理由と、曖昧な指示がハルシネーションを招く仕組み、そして誤答を減らすためのプロンプトの考え方について説明します。
「言わなくてもわかる」はAIに通じない
部下に「この前と同じ感じで」と言って通じるのは、同じ会社にいて、同じ資料を見て、過去のやり取りを共有しているからです。生成AIには、その前提の共有がありません。うまく動かない原因は、AIの頭が悪いからではなく、伝える側が省略を前提にしているところにあります。
職場の省略は、共有された文脈があって成り立つ

「この前と同じで」「あの資料を参考に」「例の件、よしなに」。職場のなかで飛び交うこうした言葉は、相手との前提共有があるから意味を持ちます。同じ会議に出ていた、同じメールを見ていた、過去に似た案件を一緒に進めていた。こうした土台があって、はじめて省略が機能します。
生成AIは、その土台を持っていません。これまでの社内のやり取りも、得意先の名前の読み方も、案件ごとの決まり文句も、最初から知っているわけではありません。前提を共有していない相手に省略された指示だけを渡せば、意図したとおりには動いてくれません。
これは人に頼むときも同じですが、AIに対してはさらにはっきり出ます。省略されている部分を、AIは推測で埋めにかかるからです。そして、その推測が当たっているかどうかは、出力を見てもすぐには判別できません。文法的には整い、語り口も自然なので、ずれていても気づきにくい。省略の代償は、あとから静かに効いてきます。
AIは「空気」ではなく、渡された条件で答えを組み立てる
生成AIが返す文章は、とても自然に見えます。そのせいで、「これくらい言えば伝わるだろう」と、人に対するのと同じ感覚で指示してしまいがちです。しかしAIは、空気を読んで意図を補っているわけではありません。与えられた指示と文脈から、もっともそれらしい答えを組み立てているだけです。
この点について、Anthropicは、生成AIに仕事を頼むときの考え方として、初日に入ってきたインターンに説明するつもりで、はっきり、具体的に伝えることを勧めています。AIを低く見るための比喩ではありません。共有されていない前提を期待せず、必要な情報を抜けなく言葉にして渡す、という意味です。
人なら察してくれるかもしれない部分こそ、AIには先回りして書いておく必要があります。裏を返すと、うまく動いてくれないAIの多くは、能力不足ではなく、指示不足で止まっているということになります。
「いい感じで」「うまく」は、依頼として成立しにくい
AIを使っていて思ったような答えが返ってこないとき、原因のひとつに「いい感じで」「うまく」「それっぽく」といった、評価基準の見えない言葉があります。人と人のあいだでは便利な言い回しですが、AIにとっては解釈の幅が広すぎます。
利用者が重視しているのが、わかりやすさなのか、専門性なのか、やわらかい語り口なのか、問い合わせにつなげる営業的な訴求力なのか。ここが示されていなければ、AIはその空白を推測で埋めるしかありません。推測の余地が大きいほど、期待から外れた答えが出やすくなります。
しかも困ったことに、AIの出力は文体としては整っているため、ずれていても「とりあえず形にはなっている」ように見えてしまいます。この見た目のまとまりが、後工程のチェックを甘くする要因になります。読むと違和感があるのに、どこが悪いかを指摘しにくい。そんな原稿が出てきたときは、プロンプトのあいまいさを疑ったほうが早いことが多いものです。
曖昧な指示が「部分点狙い」の誤答を招く
AIの誤答は、単なる計算ミスのようなものではありません。空欄を嫌い、なんらかの答えを返そうとする性質と結びついています。曖昧な依頼を投げれば、AIはその空白を部分点狙いで埋めようとします。仕組みを理解しておくと、対策の方向が見えてきます。
AIは空白を「それらしい答え」で埋めようとする

試験のとき、わからない問題を空欄のままにするより、とりあえず何か書いておこうと考えた経験のある方は多いはずです。空欄だと確実にゼロ点ですが、書いておけば部分点がもらえるかもしれない、という発想です。
生成AIにも、これに近い傾向があります。OpenAIは、ハルシネーションについて、現在の言語モデルの訓練や評価の仕組みが、わからないと認めるよりも、推測して答える方向を後押ししやすい面があると公式に説明しています。正解できるかどうかわからない問いでも、空欄にするより答えを返したほうが、評価上は有利になる場面があるためです。
結果として、AIは自信のない内容でも、それらしく整えて返してきます。「わかりません」で止まらず、なんとか形にしようとする。受験生の部分点狙いとAIの誤答は、驚くほどよく似た構造をしています。違うのは、受験生の場合は採点者が間違いを見抜いて減点してくれるのに対し、AIの場合は利用者自身が採点者にならないと誰もチェックしてくれない、というところです。
しかも、AIが書く文章は言葉の流れが整っているため、間違いが目立ちにくい構造になっています。人が書いた誤答なら、どこかに違和感が残ることが多いのですが、AIの誤答は、語尾も助詞も整っていて、読んでいるあいだはすらすら流れていきます。これが、見抜きにくさに拍車をかけます。
情報不足のままだと、誤答は「自然な文章」に化けやすい
「このテーマで記事を書いて」「営業向けに提案をまとめて」とだけ頼んでも、AIには、誰向けなのか、どの媒体で使うのか、何を重視するのか、どこまで事実ベースで書くべきなのかがわかりません。利用者が本当に求めている条件を、AIは推測するしかなくなります。
OpenAIは、ハルシネーションを、もっともらしいが正しくない記述と定義しています。文章としては整っているぶん、利用者は自然な流れで読んでしまい、誤りに気づきにくい。ここが、ハルシネーションの怖さです。
情報や材料を渡さずに答えだけを求めれば、AIは一般論や推測で空白を埋めます。そのときに、存在しない前提や、確認されていない数字、実在しない事例が紛れ込むことがあります。文法的には自然、語り口も落ち着いている、しかし中身は事実と合っていない。
AIの出力のうち、もっともチェックが甘くなりやすいのが、この見た目の整った誤答です。慌てて使えば、あとから訂正や謝罪が必要になる場面も出てきます。
対策は、AIを疑うことではなく条件を整えること
ここで大切なのは、ハルシネーションをゼロにする魔法のプロンプトを探すことではありません。AIに自由に補わせない条件づくりのほうが、実務では効きます。
目的はなにか、対象は誰か、使う材料はなにか、守ってほしい制約はなにか、わからないときはどう振る舞ってほしいか。これらを人が先に整理し、言葉にして渡す。ここがそろっているだけで、AIが推測で埋める余地は大きく狭まります。
曖昧な指示を投げるほど、AIは部分点狙いの受験生のように、なんらかの答えを返そうとします。逆に、条件が整っていれば、AIはその範囲のなかで、誠実に答える方向に動きやすくなります。
ハルシネーション対策は、AIの精度を疑う前に、こちらの指示の出し方を疑うことから始まります。AIの性能が上がっても、この順序は当面変わりません。依頼の精度が出力の精度を決めるという関係は、モデルが新しくなっても残る構造です。
AIへの指示で押さえたい三つの軸
うまく使えるかどうかは、特別な呪文を覚えているかどうかではありません。相手に誤解されないように、仕事の条件を言葉にできているかどうかです。ここでは、押さえておきたい軸を三つに整理します。
第一の軸、なにをしてほしいのかを具体的に決める

最初に渡すべきなのは、抽象的な期待ではなく、具体的な仕事の中身です。「記事を書いてください」だけでは、誰に向けた記事なのか、なんのために書くのか、どこに載せるのか、どのくらいの長さで必要なのかがわかりません。
たとえば「新商品の紹介文を作って」と頼むのと、「自社サイト掲載用に、中小企業の総務担当者に向けて、導入のメリットが伝わる紹介文を、です・ます調で五百字前後、導入、特徴、問い合わせへの導線の順で書いて」と頼むのでは、返ってくる答えの安定感がまったく違います。
長く書くこと自体が目的ではありません。解釈の幅を狭めることが目的です。OpenAIのプロンプトガイドでも、明確さと具体性、十分な文脈、そして必要なら文体や形式まで言葉にすることが勧められています。人に仕事を頼むときも、相手が迷わない頼み方ほど仕事は進みやすくなります。AIも同じで、なにをしてほしいのかを具体的に決めることが、出力の精度を支える土台になります。
現場で試してみると、この違いは思いのほか大きいことに気づきます。同じテーマでも、対象読者を決めるだけで話題の選び方が変わり、文体を指定するだけで語尾の印象が揃い、長さを決めるだけで情報の取捨選択が安定します。プロンプトを一行増やすだけで、あとの修正が半分になるようなことも珍しくありません。
第二の軸、答えの材料と根拠を渡し、勝手に補わせない
答え方だけでなく、なにをもとに答えるかまで指定することも重要です。社内資料、会議メモ、商品説明、公開されているURL、表記ルール。使ってほしい材料を一緒に渡せば、AIが推測で埋める余地はぐっと小さくなります。
逆に、材料を渡さずに「うちのサービスを説明して」と頼めば、AIは一般論と推測で空白を埋めにいきます。公開されている情報と、社内にしかない情報の区別もつかないまま、それらしい説明を組み立てます。ここに、事実と違う内容が紛れ込むすきが生まれます。
「この資料だけを根拠に書いてください」「載っていない点は書かないでください」「不明な箇所は不明と書いてください」。こうした条件を最初に決めて渡すことは、AIを縛るためではありません。仕事の精度を守るためです。
材料と根拠の指定は、ハルシネーション対策のなかでも、もっとも効きやすい一手になります。とくに広告や販促の文面では、事実と推測が混ざると取り返しがつかない場面もあるため、この一手はかなり大きく効いてきます。
たとえば、クライアントの実績紹介を書かせるとき、素材として提供されていない数値や受賞歴を、AIが気を利かせて足してくることがあります。文章は自然でも、実在しない実績が並んでいれば、公開すれば誤認表示にもなりかねません。材料を限定する指示は、こうした先回りの創作を抑えるためにも必要です。
第三の軸、わからないときの答え方まで先に決めておく
見落とされやすいのが、答えが出せないときにどう振る舞ってほしいかを最初に伝えておくことです。なにも指定しなければ、AIは空欄にせず、なにかを書こうとします。先ほどの部分点狙いの話と同じ構造です。
だからこそ、プロンプトのなかに、根拠が確認できない内容は断定しないでください、参照資料にない情報は推測で補わないでください、不明な点は不明と明記してください、といった指示を入れておくと安心です。
これは、AIに完璧さを求めることとは違います。わからないときは、わからないと返してほしい。推測で埋めてほしくない。この線引きを、最初に言葉にしておくだけで、出力の信頼度は上がります。
AIへの指示は、答えを出させるための言葉であると同時に、どこまで答えてよいかを決める線引きでもあります。この線引きがないまま任せると、AIは一番書きやすい方向に流れていきがちです。
社内でAIを運用するときにも、この線引きは効いてきます。人によって許容範囲がばらつくと、ある人が書いた文章にはAIの推測が混ざり、別の人が書いた文章には混ざらない、という状態が生まれます。
社内ルールとして「不明は不明と書く」を徹底しておくだけで、AIを使った文章の品質がそろっていきます。
実務でAIを使うときに外せないこと
AIの答えの質は、モデルの性能だけで決まるものではありません。利用者がどれだけ条件を整理し、どれだけ誤解の余地を減らせているかでも大きく変わります。実務で使うときに、押さえておきたい視点を三つに整理します。
依頼文を仕事の指示書に近づける

曖昧な依頼と、条件が整理された依頼では、返ってくる答えの安定感がまったく違います。頭のなかにある完成イメージが言葉になっていなければ、AIはその空白を推測で埋めます。
そこで意識したいのは、依頼文を仕事の指示書に近づけることです。目的、対象読者、用途、文体、長さ、構成、使ってよい材料、使ってはいけない表現。ここを最初に整理して渡せば、AIはそのなかで答えを組み立てます。
特別な言い回しを覚える必要はありません。普段、部下や外注先に仕事を頼むときに書く依頼メールを、もう少しだけ丁寧にしたようなものが、理想に近い形です。
曖昧な依頼を減らす作業は、AIのためというより、発注する側の考えを整理する作業でもあります。思考の整理と、出力の精度向上が、同時に進んでいく工程になります。プロンプトを書くのが面倒に感じたときは、そもそも自分がこの仕事でなにを求めているのかを、整理しきれていないサインと考えたほうがよいかもしれません。
一度で完成を求めず、工程を分けて進める
AIを使うときに失敗しやすいのが、最初から完成品を求めすぎることです。いきなり最終形の原稿や提案書を出させようとすると、AIは足りない情報を抱えたまま広い範囲を埋めに行きます。結果として、内容が薄くなったり、根拠の弱い説明が混ざったりしやすくなります。
実務では、工程を分けて進めるほうが効きます。まず、論点の整理だけをさせる。次に、構成案を出させる。構成ごとに必要な材料を補足してから、はじめて本文を書かせる。この順番にするだけで、方向性のずれを途中で修正できます。
AIは、万能な完成機ではありません。途中で認識を合わせながら育てていく相手だと考えると、結果的に早く、正確な成果物にたどり着きやすくなります。一度で仕上げようとして何度も書き直すより、工程を分けて進めたほうが、やり直しは少なくなります。急がば回れは、AI活用にも当てはまる言葉です。
広告制作の現場で考えると、この進め方はむしろ自然です。キャッチコピー、ボディコピー、構成案、ビジュアル方針といった工程を、いきなりひとつにまとめて提出することはまずありません。企画の骨子をすり合わせて、構成を固めて、文面を磨いていく。この段取りをそのままAIとの対話に持ち込むと、無理のない進め方になります。
最後はかならず人が確認する
どれだけプロンプトを整えても、AIの出力をそのまま公開することは避けるべきです。数字、固有名詞、年月日、制度の説明、引用や出典の有無。これらは、公開や提出の前に、かならず人が確認する必要があります。
AIの文章は、見た目が整っているほど、誤りが見逃されやすくなります。そこに書かれていることと、事実として正しいかどうかは、別のことです。部分点狙いの受験生と同じで、AIは空欄を嫌うぶん、知らないことまで書き込んでくることがあります。
この確認作業は、AIを信用しないためではなく、AIを実務のなかで安全に使うための工程です。AIは、正しく使えば業務を大きく助けてくれる道具ですが、最終責任まで代わってくれる存在ではありません。最後に人が確認するという前提を持つことで、はじめて安心して使えるようになります。
とくに広告の文面やコラム記事、クライアントへの提案資料などは、公開後にそのまま情報として流通していきます。AIが補ってくれた一文が、のちに事実と異なることが発覚した場合、責任を負うのは利用者やクライアントです。だからこそ、確認は手間ではなく、業務の一部として最初から組み込んでおくものだと考えたほうが、結果的にAIを気持ちよく使い続けられます。
まとめ
生成AIをうまく使うための第一歩は、特別な言い回しを覚えることではありません。まず必要なのは、「言わなくてもわかるだろう」という頼み方をやめることです。
行間を読めと言い続けた一昔前の上司の頼み方は、生成AIには届きません。AIは空気を読んでくれず、過去のやり取りも自動で引き継ぎません。与えられた言葉と条件をもとに答えを組み立て、空白は推測で埋めます。そして、わからない問題を空欄にせず、なにかしら書き込んで部分点を狙う受験生と同じように、AIも答えを返そうとします。この二つが重なったとき、もっともらしいのに中身が確かではない文章、つまりハルシネーションが生まれます。
対策は、AIの精度を疑うことよりも、依頼の出し方を整えることから始まります。目的、対象、材料、条件、わからないときの振る舞いを言葉にして渡す。一度で完成を求めず、工程を分けて進める。最後はかならず人が確認する。この設計があるだけで、出力の安定感は大きく変わります。
そしてこの設計は、AIのためにするものではなく、こちら側の仕事を整えるためのものでもあります。AIに渡せる形で要件を整理できれば、人に頼むときにも同じ指示書が使えます。社内の引き継ぎも、外注先への依頼も、クライアントへの確認も、同じ粒度で進められるようになります。AIへの指示を整えることは、業務の伝え方そのものを整えることに直結します。
AIに書かせた文章が、どうもしっくりこない。手直しを重ねても、思った形にならない。そうした違和感は、AIの性能より先に、指示の出し方に原因があることが少なくありません。
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