2026年1月9日
その他パーパスドリブンと企業広告のこれから
企業と社会の関係は、この数年で大きく変化してきました。
かつては良い商品をつくり、分かりやすく宣伝すれば売れるという単純な図式がある程度成り立っていましたが、今の消費者はそれだけでは動きません。その企業がどんな価値観を大切にしているのか、社会とどう向き合っているのか。そうした企業の態度そのものが、購買や共感の大きな決め手になりつつあります。
インターネットやSNSの普及により、企業の発言や行動は簡単にシェアされ、評価されるようになりました。街で見かけた広告、スマホでふと目にした動画、企業の公式サイトや採用ページ。それらは別々の情報のように見えますが、消費者の頭の中では一本の線としてつながり、あの企業はこういう会社だという印象になっていきます。そこに矛盾があれば、たとえ広告がいくら綺麗にまとまっていても、信頼には結びつきません。
こうした環境の変化の中で注目されているのが、パーパスドリブンという考え方です。
ここでは、『パーパスドリブン』という言葉の意味を考えながら、企業に求められる存在意義について説明していきます。
目次
パーパスドリブンという考え方の本質

聞き慣れない言葉かもしれませんが、パーパスドリブンは実はとてもシンプルな概念です。
パーパスは企業の存在意義を意味します。何をするかやどうやるかより前にある、なぜそれをするのかという問いへの答えです。
一方でドリブンは英語で、何かによって動かされる、何かを原動力とするという意味を持ちます。つまりパーパスドリブンとは、企業が自らの存在意義を原動力として、経営や事業、広告や組織づくりを進めていく姿勢を指す言葉です。
少し分かりにくいかもしれないので、もう少し噛み砕いて説明してみます。
例えば、ある飲料メーカーが新しいお茶を発売するとします。従来の考え方であれば、美味しい、健康に良い、価格が手頃といった商品の特徴を前面に出して広告を作ればよかったかもしれません。しかしパーパスドリブンな企業は、そこにもう一段深い問いを置きます。私たちはなぜ飲料を作っているのか。それは単に喉を潤すためだけなのか、それとも人々の日常に穏やかなひとときを届けるためなのか。その問いへの答えが明確であれば、商品開発の方向性も、広告のメッセージも、社員の働き方も、すべてがその存在意義から自然に導き出されていきます。
まず、パーパスという言葉自体をもう少し丁寧に見てみます。
企業には昔からミッション、ビジョン、理念といった言葉がありました。これらとパーパスは何が違うのでしょうか。厳密に区別するのは難しいのですが、おおまかに言えば、ミッションは何をする会社か、ビジョンはどんな未来を目指すか、理念はどんな価値観や行動指針で進むかを表すのに対して、パーパスはそもそもなぜ存在しているのかという、一段深い問いに答えるものだと言われます。
例えば、運送会社のミッションは荷物を安全に早く届けることかもしれません。ビジョンは日本中どこでも翌日配送できる社会かもしれません。理念は誠実さや効率性といった言葉で表されるかもしれません。
では、パーパスは何でしょうか。それは、人と人をつなぐ、離れた場所にいる誰かの笑顔を届ける、地域の経済を支えるといった、もっと根本的な存在理由になります。社内向けのスローガンというより、社会全体に対して私たちは何のためにここにいるのかを宣言する言葉だと捉えると分かりやすいかもしれません。
そしてドリブンという言葉がつくことで、存在意義を言葉として掲げるだけではなく、それを原動力にして本当に動いているかどうかが問われるようになります。パーパスドリブンな企業とは、単に立派なステートメントを掲げている企業ではありません。そのパーパスが経営判断、商品開発、採用、広告、社内制度など、あらゆる場面で実際の意思決定の基準になっている企業です。言い換えれば、パーパスを飾りにしない会社、パーパスを本気で実践している会社とも言えます。
ここで重要なのは、パーパスは経営者だけが語るものではないということです。
現場の社員一人ひとりが、自分の仕事とパーパスの関係を理解し、日々の業務の中でそれを体現していく。そうした状態が生まれて初めて、パーパスドリブンと呼べる組織になります。受付の対応、電話の取り方、商品の梱包の仕方、メールの文面。そうした小さな接点のひとつひとつに、企業の存在意義がにじみ出ているかどうか。それが問われているのです。
立派な言葉を掲げながら実態が伴わない企業は、かえって消費者からの信頼を失ってしまう危険性があります。企業が社会的な目的を謳いながら、実際の行動が伴わなければ、パーパスウォッシングと呼ばれる状況に陥ります。パーパスドリブンとは、言葉だけでなく行動で示していくための考え方だと言えるでしょう。
なぜいま企業にパーパスが求められるのか

では、なぜ今あらためてパーパスが重視されているのでしょうか。
世界的にも、パーパスドリブンの重要性はさまざまな調査やレポートで語られています。エデルマン・トラスト・インスティテュートが毎年発表しているエデルマン・トラストバロメーターによると、人々が企業を信頼する条件として、自分たちと価値観を共有しているか、社会課題に対して誠実に取り組んでいるかといった点が大きな比重を占めるようになってきたとされています。
理由はいくつかありますが、ひとつは社会と市場の不確実性が高まり、短期的な利益だけでは経営の舵取りが難しくなっていることです。地政学リスク、環境問題、テクノロジーの急速な進化、労働人口の変化など、企業を取り巻く条件は絶えず変わっています。そんな中で、その場しのぎの対応を積み重ねるだけでは、長期的な信頼やブランド価値を保つことはできません。
例えば、ある製造業の企業が原材料費の高騰に直面したとします。短期的な利益を優先するなら、品質を下げるか、価格を上げるか、人件費を削るかという選択になるかもしれません。
しかし、パーパスが明確な企業は違う判断をする可能性があります。もし私たちの存在意義が安心できるものづくりで暮らしを支えることなら、品質は譲れない。では、どこで工夫できるか。製造工程の見直しか、仕入れ先との関係強化か、別の商品ラインの見直しか。
パーパスという羅針盤があることで、判断の軸がぶれなくなるのです。
パーパスは、こうした不確実な状況下での羅針盤の役割を果たします。
この選択は、私たちの存在意義に照らして正しいのか。短期的な利益と長期的な信頼が衝突するとき、どちらを優先するのか。そうした問いに対して、経営陣が腹をくくるための基準になります。デロイトの調査でも、パーパスを経営戦略に統合している企業は、中長期的な財務パフォーマンスだけでなく、従業員エンゲージメントや顧客ロイヤルティといった指標でも高い成果を上げていると報告されています。
また、パーパスは組織文化の土台にもなります。
ギャラップ社が世界中の企業データを分析したメタ分析では、自分の仕事に意味を感じているか、会社の目的に共感しているかといった要素が、従業員エンゲージメントと業績に強い相関を持つことが示されています。
これは実務の現場でも実感されることです。単に給与や福利厚生が良いだけでは、社員は本当の意味でやりがいを感じません。自分の仕事が社会にどんな価値をもたらしているのか、会社の存在意義と自分の役割がどうつながっているのか。それが見えたとき、人は力を発揮します。
総務や人事の立場から見れば、パーパスは単にきれいな言葉ではなく、採用、評価、育成、定着といった人材マネジメント全体に影響する実務的なテーマです。採用の説明会で語るべきは、単に事業内容や待遇だけではありません。この会社は何のために存在し、そこで働くことがどんな意味を持つのか。それを誠実に伝えることで、価値観の合う人材が集まり、入社後のミスマッチも減っていきます。
マーケティングや広告の視点から見ても、パーパスは重要性を増しています。
かつては商品の機能や価格だけで比較されていた市場も、今ではブランドの姿勢や世界観が選択の大きな要因になっています。エデルマンの調査では、自分の価値観と一致するブランドから買いたいと考える消費者の割合が高くなっていることが示されています。また、研究では、パーパスを経営戦略に統合している企業は、中長期的な財務パフォーマンスだけでなく、従業員エンゲージメントや顧客ロイヤルティといった指標でも高い成果を上げている傾向があることが示されています。
ここで大切なのは、消費者は別に企業に完璧さを求めているわけではないということです。むしろ、誠実に向き合おうとしているかどうか、失敗したときにきちんと対応するかどうか、そうした態度の方が重視されるようになっています。広告が競うべきなのは、どれだけ目立つかよりも、どれだけ真摯な態度で対話しているかに変わりつつあると言えるでしょう。
広告は消費者の体験として積み重なる

こうしたパーパスの重要性は、広告のあり方にも大きな影響を与えています。
今の消費者は、一つの媒体だけで企業を判断しているわけではありません。たとえば、通勤途中に駅の構内で企業の広告を目にし、少し気になったので昼休みにスマホで社名を検索し、そこで出てきた記事や動画を眺め、帰宅後にはSNSでその企業に関する投稿を見かけ、さらに採用ページやコーポレートサイトで背景を読む。こうした複数の接点を自然に行き来しながら、この会社は信頼できるかどうかを判断しています。
この行動の流れを少し詳しく見てみましょう。駅の広告で目に入るのはほんの数秒です。そこで伝わるのは、せいぜいビジュアルの印象と短いコピーだけです。しかし、その数秒で何かしら心に引っかかるものがあれば、人は次の行動に移ります。スマホでの検索です。ここでは、企業名と一緒にどんなキーワードが出てくるか、検索結果の上位にどんな記事が並ぶか、公式サイトのタイトルや説明文がどう書かれているかが重要になります。
さらに詳しく知りたいと思えば、公式サイトに飛びます。ここで見るのはトップページだけではありません。会社概要、事業内容、採用情報、ニュースリリース、社長のメッセージ。そうしたページを行ったり来たりしながら、この会社はどんな歴史を持ち、どんな価値観で動いているのかを探ります。そしてSNSでは、企業の公式アカウントだけでなく、そこで働く人の投稿や、商品を使った人の感想、ニュース記事のシェアなど、多角的な情報に触れることになります。
交通広告や屋外広告は、生活の動線上でふと目に入るきっかけをつくる場として機能します。一方、スマホで触れる情報やSNSの投稿は、もう少し知りたいと思った人が自分のペースで深掘りする場です。そして企業サイトやオウンドメディアは、この会社は何者なのか、どんな歴史や考え方を持っているのかを落ち着いて理解する場です。企業から見れば別々の担当部署や予算で動いていることが多い領域ですが、消費者の側から見れば、これらはすべてつながったひとつの体験に過ぎません。
だからこそ重要になるのが、一貫性です。
街で見たコピーと、スマホのバナーに書かれている言葉と、SNSでの発信内容と、企業サイトに載っているメッセージに、同じ方向性が感じられるかどうか。どこかひとつでも雰囲気が違う、言っていることが変わると感じれば、消費者の心には小さなひっかかりが生まれます。その違和感が積み重なると、この企業は本音では別のことを考えているのではないかという不信につながってしまいます。
例えば、ある企業が交通広告では環境への配慮を大きく謳っているのに、企業サイトを見ても具体的な取り組みが書かれていない。SNSでは若者向けのポップな投稿ばかりなのに、採用ページでは堅苦しい文章が並んでいる。こうしたちぐはぐさは、意図していなくても消費者には伝わってしまいます。
パーパスドリブンな広告とは、単にパーパスを前面に出した広告のことではありません。むしろ、消費者がどの接点から企業に触れたとしても、その裏側に同じ存在意義が静かに流れている状態を指します。
交通広告の一行コピーも、スマホの短い動画も、SNSでのちょっとした投稿も、企業サイトで語られる長文のストーリーも、すべてが同じパーパスから生まれている。その結果として、この会社はきっとこういう思いでやっているのだろうという印象が、消費者の心の中で形になっていきます。
パーパスを実践に落とすためにできること

では、企業はどのようにしてパーパスドリブンを実践していけばよいのでしょうか。
まず大切なのは、パーパスを言葉づくりのプロジェクトにしないことです。立派なフレーズを考え、それをポスターや映像に載せるだけでは、社内にも社外にも本当の意味では伝わりません。むしろ、社員との対話や現場のエピソード、これまでの歴史の振り返りなどを通じて、私たちは何のために存在しているのかを時間をかけて言語化していくプロセスそのものが、パーパスドリブンの出発点になります。
このプロセスでは、経営陣だけで考えるのではなく、できるだけ多くの社員を巻き込むことが重要です。
現場で働く人たちは、日々の業務の中で企業の存在意義を肌で感じています。お客様から感謝の言葉をもらったとき、困難な課題を乗り越えたとき、仲間と協力して何かを成し遂げたとき。そうした瞬間に感じた喜びや誇りの中に、企業の本当のパーパスが隠れていることが多いのです。
次に、そのパーパスを社内でどう生かすかを考える必要があります。
総務や人事、経営企画などの部門は、評価制度や表彰制度、社内イベント、オフィス環境など、日々の仕組みづくりを通じてパーパスを具体的な行動に落とし込むことができます。
例えば、評価制度を見直すとき、単に売上や効率だけでなく、パーパスに沿った行動をどれだけ実践したかという視点を加えることができます。表彰制度でも、パーパスを体現する行動をした社員を称える仕組みをつくることができます。
採用の場面でも、スキルがあるかどうかだけでなく、このパーパスに共感できるかどうかを軸にしたコミュニケーションを行うことで、入社後のミスマッチを減らすことができます。面接では、応募者に企業のパーパスを伝えるだけでなく、応募者自身が大切にしている価値観や、仕事を通じて実現したいことを丁寧に聞き取る。その上で、お互いの価値観が重なる部分があるかどうかを確認していく。そうした対話を通じて、本当に一緒に働きたい人材と出会うことができます。
広告やプロモーションの現場では、まずパーパスと今回の施策の関係性は何かを言葉にしてみることが有効です。
新商品キャンペーンであれば、その商品が企業の存在意義とどうつながっているのかを整理する。交通広告を展開するのであれば、その一瞬の接触でどんな態度を感じ取ってもらいたいのかを考える。スマホ向けの動画広告やSNSの投稿であれば、単なる機能紹介で終わらせず、なぜこの取り組みをしているのかという背景を、過剰にならない範囲でにじませる。こうした小さな積み重ねが、結果としてパーパスドリブンな広告コミュニケーションを形づくっていきます。
ここで注意したいのは、パーパスを押し付けないということです。消費者は説教されることを嫌います。立派な理念を声高に叫ぶ広告よりも、さりげなく、でも確かに伝わってくる姿勢の方が、共感を呼びます。
例えば、環境に配慮した商品を出すとき、私たちは環境に優しい企業ですと大きく謳うよりも、この商品がどんな工夫で生まれたのか、その背景にある小さな物語を淡々と語る方が、結果的にパーパスは伝わります。
パーパスを軸にした広告戦略の未来

パーパスドリブンとは、特別な流行語でも、どこか遠くのグローバル企業だけの話でもありません。企業が自らの存在意義を見直し、それを原動力として日々の活動を組み立てていくという、ごくシンプルで本質的な姿勢です。
消費者が企業を見る目が厳しくなる一方で、信頼できる企業にはこれまで以上に期待が集まる時代でもあります。
実際、今の若い世代ほど、企業の社会的な姿勢を重視する傾向があります。就職先を選ぶときも、商品を買うときも、その企業が何を大切にしているのか、どんな未来を目指しているのかを見ています。
これは一時的な流行ではなく、価値観の大きな変化だと捉えるべきでしょう。こうした変化に対応できない企業は、徐々に選ばれなくなっていきます。
パーパスを軸に、経営、組織、広告、デジタル、リアルな接点をゆるやかにつなぎ直していくことは、日本の企業にとっても大きなチャンスになるはずです。
日本には、長い歴史を持つ企業が多くあります。老舗と呼ばれる企業の多くは、実は昔からパーパスドリブンな経営をしてきたとも言えます。家訓や社是という形で、なぜ自分たちが存在しているのかを代々受け継いできた企業は少なくありません。そうした伝統を現代の言葉で語り直し、広告やコミュニケーションの中で生かしていくことができれば、日本企業ならではの強みになるでしょう。
私たちは、交通広告やデジタル広告、SNS広告など、消費者の体験全体を見据えた広告展開をお手伝いしています。単発のキャンペーンではなく、企業の存在意義を消費者に伝えていく継続的なコミュニケーションを、広告というかたちで一緒につくっていきたいと考えています。
パーパスを軸にした広告戦略や、企業ブランディングについてお悩みやご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。御社ならではの存在意義を、消費者の日常の中で自然に伝わるかたちにするお手伝いをさせていただきます。






