2025年12月18日
その他読まれるための土台作り〜ターゲットインサイトに基づくコンテンツ企画とサイト設計 |オウンドメディア戦略②
第1回では、経営課題を起点として、オウンドメディアの目的(Why)とターゲットとなるペルソナ(Who)を明確に定義し、KPIを設定しました。この「戦略(Plan)」が、コンテンツ施策の成否を分ける土台となります。
しかし、戦略が優れていても、それを具体的な「設計図」に落とし込めなければ、コンテンツ作成は非効率になり、期待する成果は得られません。多くの企業がオウンドメディア運営で失敗するのは、「なんとなく記事を書き始める」という、この設計フェーズの曖昧さが原因です。特にリソースが限られる中小・中堅企業にとって、場当たり的なコンテンツ作成は、時間と予算の浪費につながります。
コンテンツ作成に入る前のこの「設計(Design)」フェーズは、例えれば家を建てる前の土台づくりに相当します。第2回となる本記事では、この土台を強固にし、第1回で定めた戦略に基づき、成果を出すための実践的な設計ノウハウを解説します。
目次
第2回のねらい:戦略を形にする「設計図」の完成
本記事で目指すゴール
第2回のゴールは、第1回で確立した戦略に基づき、成果を出すためのコンテンツの「設計図」を完成させることです。
以下の要素を明確に定義し、「設計図」が完成すれば、コンテンツ作成に取り掛かれます。
1. 事業貢献度の高い読者を効率的に呼び込むための「キーワード戦略」
2. 検索エンジンとAIの両方から評価される「サイト構造(設計)」
3. コンバージョンに繋がる「論理的なコンテンツの構成案」
順に解説していきます。

潜在顧客を呼び込む「キーワード戦略」
競争を避けて勝つための「ロングテールキーワード」戦略
オウンドメディア運営において、競合大手と同じ土俵で「ビッグキーワード」(例:[広告][広告 種類])を追いかけても、リソースの差から検索結果の上位を獲得するのは困難です。
中小・中堅企業が取るべき戦略は、「ロングテールキーワード」にリソースを集中することです。ロングテールキーワードとは、複数の単語を組み合わせた検索ボリュームは小さいものの、ユーザーの検索意図(インテント)が具体的で、コンバージョン(CV)に繋がりやすいキーワードとなります。
| 比較項目 | ビッグキーワード | ロングテールキーワード |
|---|---|---|
| 検索ボリューム | 大 | 小 |
| 競合の度合い | 大 | 小 |
| CVR(コンバージョン率) | 低 | 高 |
| 例 | [マーケティング] | [製造業 地方企業 マーケティング 担当者 育成] |
ロングテールキーワードに注力することで、競争を避けながら、自社のサービスに高い親和性を持つ質の高い潜在顧客を効率的に呼び込むことが可能となります。
ペルソナの「ペインポイント(痛点・悩み)」からキーワードを見つけ出す方法
キーワード選定は、第1回で定義したペルソナの「ペインポイント」から逆算して行う必要があります。
ユーザーの検索意図(インテント)を、カスタマージャーニーマップのフェーズに応じて分類します。
| フェーズ | ユーザーの検索意図(インテント) | キーワードの例 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 認知期 (TOFU) | 課題や原因を知りたい | 「業務効率が悪い 原因」「残業 多い 理由」 | 接点の創出(課題認識) |
| 比較検討期 (MOFU) | 解決策やサービスを知りたい | 「経理ソフト 比較」「BPOサービス 費用相場」 | 解決策の提示(リード獲得) |
| 行動期 (BOFU) | 特定のサービスについて具体的に知りたい | 「[自社名] 導入事例」「[競合名] 評判」 | 最終的なCVへ誘導 |
※TOFU(Top of the Funnel)、MOFU(Middle of the Funnel)、BOFU(Bottom of the Funnel)
このように分類することで、単にPVを稼ぐためではなく、ペルソナの課題解決に直結し、最終的に自社の製品・サービスに行き着く「親和性の高いキーワード」を選定できます。
キーワード選定の実践ワーク
キーワードを選定する際は、検索ボリューム、競合性、そして自社との親和性の3点を総合的に判断します。
無料ツールの活用:
Googleの提供する「キーワードプランナー」や「Google Search Console」などの無料ツールを活用し、キーワードの検索ボリュームや現在の自社サイトの状況を確認します。
「Q&A」サイトの調査:
ペルソナが実際にどのような言葉で悩みを相談しているかを、「Yahoo!知恵袋」などのQ&Aサイトで調査します。ここで見つかる具体的な質問文こそが、そのままロングテールキーワードとなることが多いです。
競合分析の視点:
競合サイトが獲得しているキーワードの中でも、特に自社のコアバリューが活かせるニッチな領域に絞って分析を行います。

読者と検索エンジン、そしてAIに評価される「サイト構造」設計
従来のオウンドメディア設計は、Google検索エンジンからの流入最大化、すなわちSEO対策が主軸でした。しかし、昨今、ChatGPTなどの生成AIツールが検索体験の一部を担うようになり、情報収集の風景は一変しています。AIは、ウェブサイトをクロールし、その情報を要約してユーザーに提供します。このため、「検索エンジンに評価される構造」だけでなく、「AIが正確に理解し、信頼できる情報源として採用する構造」を意識した設計が不可欠になりました。このセクションでは、この二つの視点を両立させるためのサイト設計ノウハウを解説します。
サイト構造の最適化(従来のSEO)の基本
サイト構造は、ウェブサイト内のページ間の繋がりを整理する設計図です。この構造が最適化されていると、以下のメリットがあります。
クローラビリティの向上:
検索エンジンのクローラー(巡回プログラム)がサイト内のコンテンツを漏れなく、効率的に巡回しやすくなります。
専門性の確保:
関連性の高い情報がまとまって配置されていると、検索エンジンはそのサイトを特定のテーマに関する専門的な情報源として認識しやすくなります。
深すぎる階層構造がもたらす問題点:
重要な記事へのアクセスがトップページから4クリック以上かかるような、階層が深すぎる構造は推奨されません。クローラーにとっても、ユーザーにとっても、重要な情報がどこにあるか分かりにくくなるためです。
【重要】トピッククラスターモデルの導入
特定の分野で専門性を確立するためには、トピッククラスターモデル(TCM)の導入は効果的な手法です。TCMは、サイト内に専門性の塊(クラスター)を作るための構造です。例として、「クラウド会計ソフト」の場合で見ていきましょう。
・ピラーコンテンツ(柱)の役割:
特定の広範なテーマ(例:[中小企業向けクラウド会計ソフトのすべて])について包括的に解説する「核」となる記事です。この記事がクラスターの中心となり、他の詳細記事へのリンクを集めます。
・クラスターコンテンツ(詳細記事)の役割:
ピラーコンテンツの中で触れた各論点の詳細を深掘りする記事群です(例:[クラウド会計ソフト 導入費用 相場]、[クラウド会計ソフト 地方企業の事例]など)。
・TCMのメリット:
このTCM構造により、検索エンジンに対し、サイト全体が「クラウド会計ソフト」に関する信頼できる専門家であると明確に伝えることが可能となり、個々の記事の評価も向上します。
AIに「信頼性」と「専門性」を伝えるための構造と設計
生成AIの登場により、コンテンツの「質」の定義が変化しています。AIに正確に情報を抽出され、信頼性の高い回答として採用されるためには、従来のSEO以上の構造意識が求められます。
E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)をサイト構造で担保する考え方
E-E-A-Tは、Googleがコンテンツを評価する上で重視する要素であり、AIも情報源の信頼性を判断する基礎としています。
・設計への反映:
記事の作成者情報(専門家の経歴)、会社の信頼できる情報源(実績や導入事例)への導線をサイト内で明確にし、専門性の裏付けとなる情報を整理して配置します。
AIによる要約精度を高めるための構造
・結論ファースト:
結論や重要な定義を、導入部など、記事の冒頭で明確に提示します。これにより、AIはコンテンツの要点を正確に把握しやすくなります。
・定義の明確化:
専門用語を使用する際は、H3見出しなどで「〜とは」という形で定義を明確に記述します。
構造化データ(Schema Markup)の活用
構造化データとは、検索エンジンやAIに対し、そのページが「何についての情報か」を明確に伝えるためのコードです。FAQ、レビュー、製品などの構造化データを活用することで、AIはコンテンツの情報を技術的に正確に理解し、検索結果での視認性向上(リッチスニペット)にも繋がります。
効率的な内部リンク戦略
TCMを機能させるための核となるのが内部リンクです。
TCMに基づいた内部リンクの張り方
・クラスターコンテンツ → ピラーコンテンツ:
クラスター記事からは、必ず核となるピラー記事へリンクを貼ります。
・ピラーコンテンツ → クラスターコンテンツ群:
ピラー記事からは、関連するすべてのクラスター記事へリンクを貼ります。
・クラスターコンテンツ同士:
読者の流れを想定し、関連性の高いクラスター記事同士もリンクで繋ぎます。
リンクテキスト(アンカーテキスト)の最適化
「こちら」のような抽象的な表現ではなく、「[BPOサービス 費用相場]についてはこちら」のように、リンク先のコンテンツ内容を具体的に示すキーワードをアンカーテキストとして使用します。これにより、クローラーと読者の双方に対し、サイト構造の関連性を明確に伝えることができます。

成果に直結する「コンテンツ企画」の実践
コンテンツの役割を明確化する(カスタマージャーニーとの連動)
コンテンツの企画は、第1回で作成したカスタマージャーニーマップに紐づけることで、その役割と成果が明確になります。
コンテンツの役割を決定
・ペルソナが「認知期」にいれば、コンテンツの役割は「課題の気づきを与える」ことになります。
・「比較検討期」にいれば、コンテンツの役割は「自社サービスが最適な解決策であることを論理的に提示する」ことになります。
フェーズ別コンテンツ例
・認知期:課題解決のためのコラム、初心者向けガイド、業界トレンド記事(読者の学習・啓蒙が目的)
・獲得期:サービス導入事例、競合製品との機能比較記事、料金体系の解説(読者の購買意欲を後押し)
読者の「最後まで読む」を保証する「構成案」の設計
読了率を高めることは、記事の評価(SEO)だけでなく、CVRにも直結します。構成案(プロット)は、読者を離脱させず、ゴール(CV)へ導くための設計図です。
読了率を高めるために必要な5つの要素
1.タイトル: 記事の内容と読者の課題解決を予感させる(クリック率を担保)。
2.導入部(リード文): 読者のペインポイントに共感し、この記事がそれを解決できると断言する(離脱防止)。
3.本文(ボディ): 論理的な展開で、結論に向けて情報を段階的に提供する。
4.まとめ/結論: 最重要ポイントを再提示し、次の行動を促す。
5.CTA: 記事の役割に応じたコンバージョンへの導線を配置する。
論理構成の作り方:「問い」と「答え」の明確化
見出し(H2, H3)を立てる際、「読者の問い」を想定し、その直後の本文で「明確な答え」を提示するよう設計します。これにより、読者はストレスなく情報を受け入れ、記事の網羅性も高まります。
CTA(Call to Action)の最適配置戦略
CTAは「行動喚起」の意味で、設計したコンテンツの最終目的を達成するための重要な要素です。コンテンツの役割に応じたCTAの最適化が必要です。
コンテンツの役割に応じたCTAの設計
・認知記事: 熱量が低いため、無理に問い合わせへ誘導せず「関連資料のダウンロード」「無料メルマガ登録」など、次の「育成フェーズ(ナーチャリング)」へ進ませるためのCTAを配置します。
・獲得記事: 熱量が高いため、「無料トライアル申し込み」「個別相談の問い合わせ」など、最終的なCVに直結するCTAを配置します。
読者の熱量が高い位置へ配置する
・記事の途中(結論前): 課題解決に役立つ専門性の高い情報を提示し終わった直後。
・結論の直後: 記事の読み終わりに、解決策として自社サービスを提示した直後。

まとめと次のステップ
設計フェーズのチェックリスト
第1回、第2回の内容に基づき、コンテンツ制作に進む前に以下の項目をチェックし、設計の完成度を最終確認します。
□ 経営課題に紐づいた最終目的とKPIが明確に定義されているか。
□ 事業貢献度の高いロングテールキーワードのリストが作成されたか。
□ ペルソナのペインポイント(痛点・悩み)とカスタマージャーニーマップに基づき、コンテンツの役割が明確になっているか。
□ トピッククラスターモデル(TCM)に基づいたサイト構造の全体図が設計されたか。
□ 読了率を高め、CVに繋げるための「構成案(プロット)」設計の型が完成したか。






