2026年4月2日
マーケティング音のないCM、音の出る看板 動画広告とデジタルサイネージの効果
動画広告は本来、映像と音が合わさった表現です。映像の流れに乗るナレーション、ブランドの空気感をつくるBGM、商品の魅力を引き立てる効果音——それらが一体となって視聴者の印象を形成するのが、動画広告のひとつの強みでした。
ところが今日の広告環境では、その前提が大きく揺らいでいます。スマートフォンで動画広告に接触するとき、視聴者が必ずしも音を聞いているわけではありません。通勤電車の中、オフィスのデスク周り、夜の家庭内など、音を出しにくい場面で画面だけを見ている人は少なくないのです。そうした環境では、音が届いているかどうかにかかわらず動画が再生され、広告主が伝えたかったメッセージが音声とともに素通りしていくことがあります。
一方で、デジタルサイネージは別の接触環境に置かれています。街なかや店頭、施設内の画面は、視聴者が選んで見るものではなく、空間の中に存在する広告です。そこでは、音が「気づき」のきっかけになることもあれば、設置場所の性質と合わずに逆効果になることもあります。音の使い方を誤れば、伝えたい内容よりも「うるさい」という印象が先に立ってしまいます。
動画広告とデジタルサイネージは、同じ「映像広告」に括られることがありますが、視聴者との接触の構造はまったく異なります。どちらかに出稿するにしても、同じ素材を両媒体で活用するにしても、それぞれの特性を理解したうえで設計することが、広告効果を左右します。
また、この問題は出稿側だけの話ではありません。聴覚に障害のある人や、音声を受け取りにくい状況にいる人にとって、音だけに依存した広告は情報の入口を閉ざすことにもなります。誰に届けたいのかを考えるとき、音の設計はクリエイティブの問題を超えた意味を持ちます。
ここでは、音の扱い方という切り口から、動画広告とデジタルサイネージそれぞれの特性と、媒体を踏まえた広告設計の考え方を掘り下げます。
動画広告が「音なし前提」になった背景
動画広告を音なしで見られる前提で制作する必要が生まれた背景には、スマートフォンとSNSの普及があります。しかしそれだけが理由ではありません。プラットフォームの仕様変更が、動画の視聴習慣そのものを変えたのです。
オートプレイが変えた視聴の常識

2016年前後から、FacebookをはじめとするSNSプラットフォームは、タイムライン上で動画を自動再生する仕様を導入しました。このとき、音は原則としてオフの状態で再生が始まる設計になっていました。ユーザーが自分でタップして音量を上げない限り、動画は無音のまま流れ続けます。
この変化は広告主にとって大きな転換点でした。それまでナレーションやBGMを軸に設計されていた動画広告が、音なしでも内容を伝えられるかどうかを問われるようになったからです。
今ではFacebookやInstagramを運営するMeta社自身が、広告動画に字幕を付けることで音をオフにしたままでも視聴者が内容を理解しやすくなると案内しています。字幕の追加は特別な工夫ではなく、動画広告制作の標準的なプロセスとして位置づけられています。
こうした流れは、動画広告の制作慣行を大きく変えました。以前であれば、「映像は音とセットで伝える」という前提のもとでコンテンツが設計されていましたが、今では「音が届かなくても成立するか」を先に確認してから、音のある表現を加える順序になっています。
さらに、音を出しにくい状況は技術的な制約だけから生まれるわけでもありません。
電車内では周囲への配慮からイヤホンをしていない人も多く、職場のオープンオフィスでは業務中に音を出しにくい雰囲気があります。深夜に子どもを起こさないように画面だけを見ている場面もあります。つまり、音を出せる環境にいても、あえて音を出さない選択をしている人が相当数いるということです。
広告の接触環境として、無音は例外ではなくむしろ標準に近い状態といえます。
無音でも伝わるクリエイティブの基本
音が届かない場面への対応として、まず思い浮かぶのが字幕やテロップです。ただし、無音対応はテキストを乗せるだけでは十分でないことがあります。
たとえば、冒頭の数秒で何を見せるかという問題があります。
SNSの動画広告では、スクロールの流れの中で広告が表示され、関心がなければ一瞬で飛ばされます。最初の数秒が勝負になるため、その短い時間で「何の広告か」「自分に関係があるか」が視覚だけで伝わる必要があります。
テロップがあっても、画面全体に情報が詰め込まれていたり、文字が小さすぎたりすれば、読まれる前にスクロールで消えてしまいます。
商品の見せ方も同様です。
ナレーションで商品名を繰り返す構成になっている場合、音が届かない視聴者にはその商品が何なのかが伝わりません。パッケージや商品そのものを早い段階で画面に映すこと、ブランドロゴが目に入るタイミングを意識して配置することが、無音視聴でのブランド認知に影響します。
また、色や動きも情報を伝える手段になります。
視覚的に目を引くカラーリング、画面の中で目線を誘導する動きの設計は、音がない状態でも視聴者の注意を広告に引き留めるための工夫です。映像で伝える力を意識的に磨くことが、音なし視聴での広告効果に直結します。
音があることで広告が深まる場面もある
ただし、無音で内容が伝わることと、視聴者の記憶に残ることは別の問題です。この点は見落とされやすいところです。
音楽は、ブランドの印象を感情と結びつける力を持っています。耳に残るメロディやサウンドロゴは、映像だけでは作りにくい体験をつくります。
たとえば、特定のメロディを聞いただけでブランド名が浮かんだり、ある曲を聞くと特定の商品を思い出したりする経験は、音が記憶と結びついている証拠です。こうしたブランドと音の結びつきは、音が届く環境での動画広告を積み重ねることで形成されます。
また、ナレーションは映像だけでは伝えにくい情報を補う役割も持っています。
商品の使い心地や感触、複雑な仕様の説明など、視覚情報だけでは処理しきれない内容を、音声は効率的に届けることができます。これは特に、ブランドの世界観よりも商品の機能や効果を訴求したい場合に重要です。
つまり、動画広告の設計は「音なしで伝わるか」を確認しながら、「音が届いたときにどう印象を深めるか」も同時に考える必要があります。文字情報と映像で要点を整え、音声でブランドの感情的な価値や商品理解を補う二層構造が、音ありでも音なしでも機能する動画広告の考え方です。
どちらかを諦めるのではなく、両方を成立させる設計に意味があります。
デジタルサイネージで音が持つ可能性と限界
屋外や店頭のデジタルサイネージは、動画広告とは大きく異なる接触環境にあります。視聴者が自分でコンテンツを選ぶのではなく、空間の中に置かれた画面を移動しながら目にするという構造です。この違いが、音の役割と使い方に直接影響を与えます。
音が「気づき」を生む場面

人の視野は広いようで、実際に注意を向けられる範囲は限られています。一方で音は、視野の外からでも注意を引くことができます。店頭のサイネージが適切な音を出すことで、それまでサイネージに向いていなかった視線が引き寄せられる場面があります。
東京都市大学の澁谷将士・中村雅子両氏による研究(2015年)では、買い物客や観光客が多い場所では音声が視聴のきっかけになりうる可能性が示されています。もちろん研究の条件や環境によって結果は異なりますが、少なくともサイネージにおける音の役割が視覚情報だけには収まらないことは示されています。
こうした音の効果が発揮されやすいのは、周囲に適度な活気や話し声がある空間です。
ショッピングモールの通路、駅の商業エリア、スーパーの売り場内など、人の流れと環境音が自然に混在する場所では、短い効果音や音声が広告への「最初の気づき」として機能することがあります。まず画面の存在に気づいてもらうことが、そのあとの情報伝達の前提になるため、この「気づき」の役割は決して小さくありません。
ただし、こうした音の活用が有効なのは、あくまで「気づきを生む入口」としてです。その後の情報伝達は、画面上のビジュアルが担うことになります。音に頼りすぎず、映像と音の役割分担を明確にしておくことが、サイネージにおける音の使い方の基本になります。
場所が音の効果を決める
一方で、音が常に有効なわけではありません。サイネージの効果は設置場所の性質に大きく依存します。
病院の待合室、静かなオフィスビルのエントランス、美術館や公共図書館に近接した施設内——こうした場所では、音が出る広告そのものが場違いになります。人が静けさを求めている空間や、音を出すことへの社会的な暗黙のルールがある空間では、音の広告はかえって不快感を与えます。
先述した東京都市大学の澁谷・中村両氏の研究では、設置場所によっては音声がうるさすぎると感じられる場合があり、音量の調整が現場で課題になることも指摘されています。広告が「存在に気づいてもらう」ことに貢献したとしても、その気づきがネガティブな印象と一緒に起こるのでは、広告効果としては逆効果になりかねません。
つまり、サイネージで音を使うかどうかは、「音が使える設備があるかどうか」ではなく「音を使うことがその場所の性質や周囲の状況に合っているかどうか」で判断する必要があります。音の可能性と、設置環境への配慮はセットで考えなければなりません。
無音前提でビジュアルを設計することの重要性
実際には、公共空間のデジタルサイネージの多くは無音で運用されています。そのためサイネージの基本設計は、音なしで情報が伝わることを前提にしておくのが安全です。
遠くからでも読める文字のサイズと太さ、瞬時に内容が把握できる画面のレイアウト、ブランドカラーやビジュアルの一貫性——これらが、音のない状況での情報伝達を支えます。
動画広告と根本的に異なるのは、視聴者が画面を見ている時間を制作側がコントロールしにくい点です。
スマートフォンの動画広告であれば、15秒や30秒という尺の中で段階的に情報を積み上げられます。しかしサイネージでは、足を止めて画面を見続けてくれるとは限らず、通行者が数秒のうちに読み取れる内容に絞り込む設計が必要です。
情報を詰め込もうとするほど、どれも伝わらないという結果になりやすいのがサイネージの難しさです。「何を伝えるか」よりも「何を伝えないか」の判断が、サイネージのビジュアル設計では重要になります。音の有無以前に、この絞り込みの精度が広告効果を左右します。
同じ動画素材を複数媒体で使うときの考え方
実務では、ひとつの動画素材を動画広告とデジタルサイネージの両方に使うことがあります。予算や制作スケジュールの都合から、素材を使い回すこと自体は現実的な選択です。
ただし、同じ映像でも媒体が変われば受け取られ方は変わります。この前提を持っておくことが、素材を有効活用するための出発点になります。
オンラインとリアルでは接触の構造が違う

スマートフォンの動画広告は、個人の画面の中でスクロールの流れとともに現れます。視聴者はコンテンツを選ぶ主体であり、広告はその流れの中に差し込まれる形です。気が向けば見続け、関心がなければ一瞬で飛ばされます。こうした環境では、冒頭の数秒で視聴者の足を止めさせる引力が、設計の核心になります。
デジタルサイネージはこの構造と正反対です。視聴者は広告を選ぶのではなく、空間の中でたまたま視界に入ります。個人の意図とは関係なく、広告が視野に飛び込んでくる形です。そのため、「見る気にさせる」というステップが不要な代わりに、「短時間で内容を把握させる」設計が求められます。
この接触構造の違いは、同じ素材を両媒体に使ったときに無視できない差を生みます。
たとえば、オンライン向けにナレーションを中心に情報を積み上げる構成にした動画が、サイネージでは音が出ないため内容がほとんど伝わらないという状況が起こります。逆に、サイネージ向けに静的な情報を画面全体で見せることを優先した素材が、スマートフォンの小さな画面では文字が小さすぎて読めないということもあります。接触の構造が違えば受け取られ方が変わるのは自然なことで、同じ素材を流すだけでは両方の媒体で最大の効果を得るのが難しいのはそのためです。
素材をまたいで使うための設計の考え方
複数の媒体で同じ素材を使う場合、最初から制約の多い条件を基準に設計しておくことが有効です。音なし、短時間での把握、遠距離からの視認——これらの条件をすべて満たせる素材を作っておければ、条件がゆるい媒体でもそのまま活用できます。
核心となるメッセージ、ブランド名や商品名は、映像の中でテキストとしても画面上に置くことが基本です。音声ナレーションだけに重要情報を載せないことで、音が届かない接触環境でもメッセージが伝わります。
また、画面全体に情報を詰め込まず、視認性の高い余白を意識して使うことで、画面サイズや視聴距離が異なる媒体でも対応しやすくなります。
こうした設計の考え方は、素材を使い回すための妥協ではなく、広告そのものの伝わりやすさを底上げする方向につながります。制約を基準にして設計することで、結果として使いやすく伝わりやすい素材になります。
また、こうした設計は制作の現場での判断を明確にする効果もあります。
「この情報は音声だけに載せていいか」「このテロップは遠くから読めるか」という問いを制作段階で持つことで、媒体ごとの修正コストが事後的に膨らむことを防ぎます。設計段階での一手間が、運用段階での余裕を生みます。
媒体ごとの微調整が効果の差をつくる
同じ素材をそのまま流すだけでは最大の効果が得にくいのも事実です。最初の設計段階で複数媒体への対応を意識しながら、出稿先が決まった段階で媒体に応じた微調整を加えることが理想です。
動画広告では字幕のフォントサイズや表示位置をスマートフォン画面に最適化する必要がありますが、サイネージでは画面が大きい分、文字の量よりも視認性と瞬間的な把握のしやすさが優先されます。動画広告では15秒・30秒・6秒といった尺の選択肢がありますが、サイネージでは数秒から十数秒のループで完結する構成のほうが向いていることもあります。
こうした調整は、大がかりな作り直しを必要としません。カットの順番の入れ替え、テキストのサイズや情報量の調整、尺の切り出し方の見直し——これらを加えるだけで、同じ素材でも媒体ごとの効果を引き出しやすくなります。追加の制作コストを最小限に抑えながら、広告素材の活用範囲を広げる工夫として検討する価値があります。
音の設計は受け手への配慮にもつながる
広告効果の観点から音の使い方を考えてきましたが、もうひとつ見落とせない視点があります。音声情報に頼り切らない設計は、聴覚に障害のある人や、音を受け取りにくい状況にいる人への配慮にもつながるということです。
W3Cが示す字幕の意義

ウェブの技術標準を定める国際団体W3C(World Wide Web Consortium)は、字幕が動画の音声トラックの内容を文字で伝えるものであり、ろう者や難聴者が映像の内容を理解するうえで必要なものだと示しています。この考え方は、広告においてもそのまま当てはまります。
商品の特長やキャンペーンの内容がナレーションだけに含まれていると、音声を受け取れない人にはその情報が届きません。ナレーションに依存した構成は、無音視聴への対応が不十分になるだけでなく、情報が届く人と届かない人の差を広げることにもなります。
広告の目的は、できるだけ多くの潜在的な顧客に情報を届け、行動を促すことです。その観点から見ると、音声にだけ重要な情報を載せる設計は、接触できる人の範囲を最初から狭めていることになります。
字幕やテキストの整備は、アクセシビリティの観点から求められるとともに、届けたい人に確実に届ける広告設計という観点からも合理的な選択です。特に、年齢とともに聴力が変化する高齢者層や、日本語を母語としない外国籍の視聴者を意識するとき、テキスト情報の充実は広告リーチの裾野を広げる役割も担います。
音があっても音がなくても成立する設計の意味
音声ありの表現を否定する必要はありません。BGMやナレーションがあることで、ブランドの印象や商品への理解が深まる場面はあります。音は広告の表現を豊かにする重要な要素です。
ただし、音声でしか伝わらない表現を核心に据えてしまうと、音が届かない人を最初から広告の外に置くことになります。音を使いながらも、その音声の内容が文字や映像でも確認できるようにしておくことが、より多くの受け手に届く広告設計の基本です。
音があれば印象が深まり、音がなくても要点は伝わる——この状態を目指すことが、媒体をまたいで使える素材の条件であり、多様な受け手に届く広告の条件でもあります。
どちらかを選ぶのではなく、両方を成立させる設計が結果的に広告の可能性を広げます。
伝わる設計が広告素材の寿命を延ばす
広告素材は、一度つくって一度きりで終わるとは限りません。キャンペーン期間が延長されることもあれば、出稿先が変わりながら長く使い続けることもあります。そのたびに作り直すコストと手間は、積み重なれば大きな負担になります。
最初から音の有無の両方を想定した設計にしておけば、媒体が変わるたびに根本から作り直す必要がなくなります。細かい調整で対応できる素材は、運用の柔軟性という意味でも有利です。
広告効果を最大化するためには、ターゲット・媒体・クリエイティブの三者が噛み合うことが必要です。音の設計はクリエイティブの判断でありながら、媒体の特性を踏まえた選択でもあります。どちらの媒体に出稿する場合でも、音の使い方を意識的に設計に組み込んでおくことが、伝わる広告をつくる第一歩になります。
また、広告素材の寿命という観点は、費用対効果を考えるうえでも無視できません。一本の動画素材を複数の媒体・期間にわたって使い続けることができれば、制作コストを分散させながら、接触回数を増やすことができます。音の設計ひとつが、そうした運用上の柔軟性を左右します。
まとめ
動画広告では、音なしで見られることが実務上の前提になっています。プラットフォームのオートプレイ仕様が視聴習慣を変え、無音視聴への対応はすでに広告制作の標準として位置づけられています。
ただし、無音で内容が伝わることと、視聴者の記憶に残ることは別の問題です。音が届く環境では、ブランドの印象を深める力として音を積極的に活かす設計が必要です。
デジタルサイネージは、接触の構造が動画広告とは異なります。視聴者が選んで見るのではなく、空間の中でたまたま目にする媒体であり、設置場所によって音の有無や役割が変わります。音が気づきのきっかけになる場所もあれば、無音での運用が前提になる場所もあります。どちらにしても、短時間で内容が視覚的に伝わるビジュアル設計の精度が効果を左右します。
また、音の設計はアクセシビリティという視点にも関わっています。ナレーションだけに重要情報を載せる設計は、音声を受け取りにくい人に対して情報を閉じることになります。
届けたい人に確実に届けるという広告の本来の目的から考えれば、音がなくても要点が伝わる設計は不可欠です。
大切なのは、音の有無を一律に決めることではなく、どの媒体で、どんな状況で、どんな受け手に届けるかを踏まえて設計することです。音がなくても伝わり、音があればさらに印象が深まる——そういった設計の考え方が、媒体をまたいで使える広告素材をつくり、より多くの人に届く広告を実現します。
動画広告やデジタルサイネージの活用について詳しく知りたい方、現在の広告素材の設計を見直したいとお考えの方は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。






