2026年4月20日
マーケティング聖地巡礼から考える地方創生 見慣れた景色を観光資源に変える視点
地方創生と聞くと、企業誘致や移住促進、雇用創出、産業振興などを思い浮かべる方が多いと思います。実際、地方創生の取り組みは地域ごとに大きく異なり、観光だけで語れるものではありません。
その一方で、多くの地域に共通しやすい課題があります。それが、地域を訪れるきっかけをどうつくるかという点です。地域の経済を回していくためには、外からの人の流れが必要です。観光が地域活性化の起点の一つとして重視されているのは、そのためです。
そこで注目したいのが、アニメや漫画などの作品をきっかけに人が実際の場所を訪れる聖地巡礼です。
聖地巡礼はファン文化として受け止められがちですが、地域の側から見ると、すでにある景色や施設、街並みに新しい意味が加わり、来訪理由へ変わっていく動きでもあります。
観光庁は、映画やアニメなどのロケ地や舞台を観光需要を喚起する重要な拠点と位置づけ、聖地巡礼の促進を含むロケツーリズムを官民一体で進める考え方を示しています。アニメツーリズム協会も、地域・企業・権利者・アニメファンの橋渡しとなり、作品の世界観やキャラクターを公式に活用した商品・サービス・イベントの創出を促進し、地域創生に貢献することを掲げています。
地域の人にとっては見慣れた風景でも、地域の外にいる人にとっては特別な魅力を持つことがあります。作品の文脈を通すことで、それまで日常だった景色が、訪れてみたい場所として立ち上がることもあります。これは新しい観光資源を一からつくる話ではなく、既存の地域資源を別の角度から見直し、新たな層との接点を生み出す考え方ともいえます。
地域の担当者やプロモーションに携わる方にとって、この視点はすぐに使える発想の入口になります。
ここでは、聖地巡礼の視点を通して、見慣れた景色を来訪理由に変える考え方について掘り下げます。
見慣れた景色が来訪理由になるとき
地方に新しい人の流れをつくるというと、大きな施設整備や新名所づくりを思い浮かべがちです。もちろん、それが必要な地域もあります。ただ、すべての地域が大規模な投資を前提にしなければならないわけではありません。予算が限られる自治体や地域事業者にとって、すでにあるものをどう活かすかという発想は、現実的な出発点になります。聖地巡礼が示しているのは、すでにある風景や施設でも、見せ方と文脈しだいで新しい来訪理由になり得るということです。
場所の意味が変わるとき

聖地巡礼の面白さは、まったく新しい観光地をゼロから生み出すことではなく、もともとある場所の意味が変わるところにあります。駅前の風景、橋、湖畔、温泉、キャンプ場、公園、商店街といった場所は、作品と結び付く前からそこにあります。けれども、作品を通してその場所を知った人にとっては、ただの景色ではなく、実際に訪ねてみたい場所へ変わります。
静岡県と『ゆるキャン△』の関係がわかりやすい例です。原作者のあfろ氏は浜松市出身で、SEASON1から SEASON3を通じて静岡県内全域がモデル地になっています。
静岡県は公式コラボサイトを設け、県内40か所を対象にしたデジタルスタンプラリーや大井川鐵道・天竜浜名湖鉄道とのコラボを展開するなど、県をあげた誘客施策に取り組んでいます。もともと存在していたキャンプ場、温泉、吊り橋、ローカル鉄道といった資源が、作品をきっかけに別の文脈で見られるようになった形です。
作品が何もない場所に価値をゼロからつくり出したというより、すでにあった場所に新しい入口が加わったと考えるほうが実態に近いはずです。
この見方は、地方創生を考えるうえでも重要です。
地域資源の価値は、目新しさだけで決まるものではありません。地域の中にすでにある景色や施設でも、誰にどう届くかが変われば、その価値は大きく変わります。観光の世界では、新しいものをつくらなければ人は来ないと考えがちですが、聖地巡礼の事例を見ると、既存の風景が新しいターゲットに届くことで、十分に新しい来訪理由になり得ることがわかります。予算の大小にかかわらず、地域がどこを入口として見せるかを考え直すことが、取り組みの出発点になります。
地元では日常でも、外から見ると特別になる
地域で暮らしている人にとっては当たり前の景色でも、外から見れば強い魅力を持つことがあります。毎日通る道や橋、何気ない森や丘陵地、夕方の光がきれいな坂道などは、地元では見慣れた風景かもしれません。しかし、作品の記憶と重なった瞬間、その場所は特別な意味を帯びます。
狭山丘陵がよい例です。トトロのふるさと基金は、狭山丘陵を映画『となりのトトロ』の舞台のモデルの一つとなったといわれる場所だと案内しています。大規模な新施設ができたわけではなく、もともとあった自然や景色が、作品と重ねて受け止められることで広く知られるようになった形です。
ここで大切なのは、地元の人にとって当たり前の風景ほど、観光資源として見落とされやすいという点です。
有名な建造物や大規模施設がなくても、その土地らしい空気感や風景のまとまり自体が、人を動かす理由になることがあります。聖地巡礼は、そのことを目に見える形で示してくれる現象でもあります。地域の内側から見ているだけでは気づきにくい魅力を、外からの視点があらためて引き出すのです。
観光振興の文脈で語られる「地域資源」は、名所や施設に限りません。日常の風景の中にある静けさ、光の入り方、季節ごとの色合い、生活の音といった要素も、地域の外にいる人にとっては十分な吸引力を持つことがあります。そうした資源は、言語化が難しいぶん見落とされやすいのですが、それを丁寧に言葉や映像に変えていくことがプロモーションの役割でもあります。
新たな層の掘り起こしにつながる
この変化の価値は、来訪者数の増減だけではありません。もともと温泉目的で訪れていた場所に、作品ファンという別の動機を持った人が加わることに意味があります。既存の観光客を取り合うのではなく、これまでリーチできていなかった層との接点が生まれるのです。
山梨県内の聖地でも同様の動きが確認されています。
山梨大学と山梨中銀経営コンサルティングの共同調査では、『ゆるキャン△』の放映後に本栖湖、四尾連湖、ほったらかし温泉などへファンが訪れるようになったことが示されています。新しい施設をつくったから人が来たのではなく、既存の場所に新しい来訪理由が生まれた結果です。
地方創生の文脈で見ると、この点は大きな意味を持ちます。
移住や定住は、いきなり起こるものではありません。まず地域を知ること、訪れること、好意的な印象を持つことが入口になります。聖地巡礼は、その最初の接点をつくりやすい動きです。
観光で終わる場合ももちろんありますが、観光が入口になるからこそ、その地域への関心や再訪の可能性が生まれます。国が交流人口・関係人口の拡大を地方創生の重要な柱と位置づけていることからも、来訪のきっかけづくりは軽く見られません。
繰り返し来る人が増え、地域との関係が深まっていくことが、移住・定住への道につながることもあるからです。一度の来訪が地域への好感につながり、それが次の来訪や口コミへとつながっていく。そのような循環をつくることが、地域の長期的な活性化に結びつきます。
静岡県沼津市の事例はその最先端といえます。『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地として知られる同市では、繰り返し訪れるうちに移住を決断するファンが増え、沼津市移住定住推進室がアニメファンを対象にした移住相談会を開催するまでに至りました。
2018年度に86人だった移住者数は2023年度には378人と約4倍に増加しています。聖地巡礼が観光にとどまらず、定住という形で地域に根を張るケースが生まれていることを、この事例は示しています。
作品によって聖地の生まれ方は違う
聖地巡礼と聞くと、作品の人気そのものに目が向きがちです。もちろん知名度は重要ですが、実際の広がり方は作品の舞台設定によって大きく変わります。この点を見誤ると、地域側の打ち出し方もずれてしまいます。
人気作品であれば何でもうまくいくというわけではなく、その作品と地域の関係をどう整理するかによって、施策の内容は変わってきます。大切なのは、人気作品に乗ることではなく、その作品がどのように現実の場所と結び付いているかを見極めることです。
舞台が明確な作品は、地域に来訪が集まりやすい
作品の中で地名や風景が比較的はっきり描かれている場合、ファンの来訪先は特定の地域に集まりやすくなります。どこへ行けばよいかがわかりやすく、作品の場面と現地の風景を重ねやすいからです。こうした作品は、地域にとっても案内や回遊施策を組み立てやすい特徴があります。

京都府宇治市は、『響け!ユーフォニアム3』を宇治を舞台とする作品として明確に位置づけ、聖地巡礼マップの配布・市内各所でのパネル展示・商店街店舗でのノベルティ配布など、描き下ろしイラストを活用したコラボイベントを展開しています。舞台が明確なぶん、地域全体で受け止めやすく、来訪者に向けた施策も組み立てやすくなります。これは、作品の人気だけでなく、地域がどう迎え入れるかによって価値が広がることを示しています。
また、舞台が明確な作品では、地域の中で複数の立ち寄り先をつくりやすいという利点もあります。駅、橋、観光案内所、商店街などを結びやすいため、単発の立ち寄りではなく回遊につなげやすくなります。
聖地巡礼が地域消費へつながりやすいのは、こうした回遊性とも関係しています。一か所だけ訪ねて終わるのではなく、地域の中を歩いてまわる体験が生まれるからこそ、飲食や物販、宿泊への波及も期待できます。
舞台が明確な作品の事例では、沿線の鉄道会社やバス事業者とのラッピング車両コラボなど、公共交通機関との連携が地域への導線をつくる役割を果たすことも多く、こうした横のつながりをどう設計するかが施策の厚みを左右します。ラッピング電車やバスなど公共交通機関とのコラボレーションも、移動そのものが体験になることから、聖地巡礼との相性がよい施策の一つです。
もともとの地域資源が、作品で広く届くこともある
聖地巡礼は、作品が場所を一方的に有名にするだけではありません。もともと地域が持っていた文化や歴史が、作品を通して新しい層へ届くこともあります。
近江神宮は百人一首かるたゆかりの神宮として知られています。公式情報でも、小倉百人一首巻頭歌ゆかりの地として高校かるた大会が行われることなど、競技かるたとの結び付きが強く示されています。
『ちはやふる』をきっかけに近江神宮を思い浮かべる人は多いですが、ここでは作品がゼロから価値をつくったというより、もともとあった文化資源に新しい入口が加わったと見るほうが自然です。
場所が作品によって有名になる場合もあれば、場所が持っていた文脈を作品が広く届ける場合もあります。
地域資源とは、必ずしも新しくつくるものだけではありません。すでにある歴史や文化、風景が、別の文脈を得ることで届く相手が変わることがあります。聖地巡礼は、その変化が起こりやすい入口の一つです。地域がこれまで十分に発信しきれていなかった資源の存在を、あらためて見直すきっかけにもなります。
地域側からすれば、「すでに持っているもの」を活かす視点が、外部からの目線によって整理されるといえます。
舞台が曖昧な作品は、複数地域に可能性が広がる
一方で、すべての作品が一点集中型ではありません。地名が明示されていなかったり、複数の風景や印象をもとに世界観がつくられていたりする作品では、ファンの間で「この場所はあの作品の空気に近い」という解釈が広がりやすくなります。
こうした作品は、特定地域に人が集中しにくい反面、見慣れた景色そのものが新しい入口になる余地を持っています。
狭山丘陵のように、公式に一点の舞台として固定されていなくても、作品世界との近さが地域の魅力として受け止められる例はあります。舞台が曖昧な作品が不利というより、地域の見せ方しだいで可能性の出方が変わるということです。
『鬼滅の刃』はその典型的な例です。作中で炭治郎が修行の末に一刀両断した大岩に似た岩が、奈良、長野、岐阜、箱根、茨城など全国5か所以上でファンに「聖地」として語られています。炭治郎と禰豆子の出身地は公式ファンブックで雲取山と明記されており、登山目的の客とはまったく異なる層が同じ山を訪れるきっかけになりました。作品の舞台設定と似た空気を持つ福島県会津若松市の芦ノ牧温泉・大川荘は、無限城に似ていると話題になり、多くのファンが訪れるようになりました。
これらはいずれも、作品側から「ここが舞台です」と示されたわけではありません。地域の景色や歴史と作品の世界観が重なると感じたファンが自発的に足を運び、それが各地に広がっていった形です。
このタイプでは、「正解を一つに絞る」発想より、「共感できる風景や雰囲気をどう見せるか」のほうが重要になります。
舞台が明確な作品では案内や回遊の設計が中心になりやすく、舞台が曖昧な作品では空気感や景観の伝え方が中心になりやすい。作品の特性を見極めることが、施策の出発点になります。そしてどちらのタイプの作品であっても、地域の側が自分たちの強みをどこに置くかを整理しておくことが、的外れな発信を防ぐことにつながります。
聖地でなくても、地域から始められることがある
有名な聖地を持つ地域だけが、聖地巡礼の考え方を使えるわけではありません。作品の舞台として明示されていない地域でも、地域の側にどんな気づきがあるかによって、来訪の入口はつくれます。重要なのは、何かに便乗することではなく、地域の中にある魅力をどう整理し、伝えるかという点です。
舞台でなく、作者のゆかりでつながる
聖地巡礼の入口は、作品の舞台設定だけではありません。作者の出身地や作者とゆかりのある地域という接点から、ファンとつながる方法があります。
作品の世界観が直接描かれた場所でなくても、「この作者の故郷」という事実だけで、ファンにとっては訪れる十分な動機になります。
鳥取県はその典型です。2015年、鳥取空港は『名探偵コナン』の原作者・青山剛昌氏の出身地であることにちなんで「鳥取砂丘コナン空港」の愛称を付け、空港そのものをコナンファンの観光スポットに変えました。北栄町の青山剛昌ふるさと館には年間約20万人が訪れており、作者のゆかりが地域全体の観光資源として機能しています。
熊本県では、熊本市出身の漫画家・尾田栄一郎氏が描く『ONE PIECE』と県が連携した復興プロジェクトが立ち上がり、県内9市町村に麦わらの一味の銅像が設置されました。作品の舞台ではない地域でも、作者との信頼関係を軸にした観光施策が広がった事例です。
「作者のゆかり」を活かすアプローチは、地名や景観が作品に登場していなくても成立します。地域がまず、どんな作者や作品と接点を持てるかを整理することが、新しい来訪動機をつくる出発点になります。
断定ではなく、示唆で伝える

舞台がはっきりしていない作品に対して、地域が「ここがモデル地です」と言い切ってしまうのには危うさがあります。ファンほど違和感を覚えやすく、期待値も上がりすぎるからです。そうではなく、「この景色はどこか物語の空気に似ていませんか」という示唆の形で伝えるほうが自然です。
アニメツーリズム協会が重視しているのも、地域・企業・権利者・ファンの橋渡しです。地域が一方的に断定するのではなく、関係者との距離感を保ちながら魅力を育てていく視点が大切だということです。
示唆型の伝え方には、もう一つ利点があります。それは、作品名だけに頼らず、地域そのものの魅力を前に出しやすいことです。
景色、空気感、時間の流れ、建物のたたずまい、日常の中にある雰囲気などを丁寧に言葉にできれば、作品を知らない人にも届きやすくなります。ファン向けの発信に閉じず、地域の観光資源としての幅も持たせやすくなる点で、自治体にとっても民間事業者にとっても使いやすい考え方です。
また、特定の作品の人気に左右されにくくなるという意味でも、長期的な発信の安定につながります。発信の入口は作品でも、受け取る側が「この地域に行ってみたい」と感じるかどうかは、地域そのものの見せ方によって決まります。
地域の中の小さな気づきが出発点になる
このような施策は、外から「この作品っぽい」と当てにいくより、地域の中にある気づきから始めるほうが自然です。
観光客にそう言われたことがある。写真を撮る人が増えた。地元の人が昔からこの風景の雰囲気を特別だと感じている。そうした小さな実感の中に、施策の種があることは少なくありません。
地方創生というと大きな仕組みや制度を想像しがちですが、実際にはこうした小さな気づきが新しい入口になることがあります。大切なのは、地域の人にとって当たり前の景色を、もう一度外から見直すことです。その見直しが、観光資源の発見につながります。
自治体の観光担当や地域事業者にとって大切なのは、いきなり大きな企画に飛びつくことではありません。まずは、地域の中でどんな風景や場所が印象に残っているのか、外から来た人が何に反応しているのかを見つめ直すことです。
その上で、どう伝えれば地域らしい魅力として届くのかを考える。小さく始めて育てる発想が、継続につながります。有名な聖地との比較ではなく、「この地域にしかないもの」を起点にした発信のほうが、長期的な支持を得やすくなります。
官民一体で受け皿をつくる
観光庁は、ロケツーリズムの推進にあたり、地域内の関係機関の連携強化による情報発信や許認可の円滑化などを重視しています。自治体だけでも、民間だけでも不十分だということです。自治体には地域全体を整理する役割があり、民間には企画や発信、体験設計の強みがあります。両方がそろってはじめて、単発で終わらない取り組みになります。
たとえば自治体が案内や景観、周遊の考え方を整理し、地域の事業者が飲食や宿泊、物販の受け皿をつくり、民間が発信や企画を担う。そうした役割分担ができれば、作品の話題性だけに依存せず、地域そのものの魅力を体験として届けやすくなります。官民一体という言葉は大きく見えますが、実際には地域の中で誰が何を担うかを丁寧に整理することでもあります。
聖地巡礼のようなテーマは、放っておくと一過性の話題で終わりやすい面があります。行政と民間が別々に動くのではなく、同じ方向を見ながら小さな取り組みを積み重ねていくことが、継続への近道です。
観光地としての評判は、来てみてどうだったかという実感の積み重ねによって育ちます。一度の来訪で感じたよさが口コミになり、次の来訪者につながっていく。そうした循環を生み出すためにも、受け皿づくりは欠かせません。そうした地道な積み重ねを支える体制づくりが、まず必要です。
期待外れにしないために必要なこと
聖地巡礼は、人を呼べる分だけ期待値も上がります。雑に扱うと、いわゆるがっかり聖地になりやすい面があります。地域にとって大切なのは、話題になることだけではなく、来た人に満足して帰ってもらうことです。
作品との距離感を誤らない

舞台が明確でない作品ほど、地域が言いすぎないことが大切です。期待をあおりすぎると、現地での印象との差が大きくなります。断定ではなく、景色や空気感の魅力を丁寧に見せるほうが、結果的には信頼につながります。
これは、単に慎重になればよいという話ではありません。作品を借りて目立つことよりも、その地域が本当に持っている魅力をどう伝えるかに軸を置くべきだということです。
地域にとっても、ファンにとっても、そのほうが長く支持されやすくなります。無理な便乗ではなく、納得感のある伝え方が、結果として地域の価値を守ります。作品の人気は移り変わります。作品に頼りすぎた発信は、その人気が落ち着いたときに見直しを迫られます。地域の魅力そのものを伝えることを軸に置いておけば、発信の土台は揺らぎにくくなります。作品はあくまで入口であり、地域そのものが目的地になっていくことが理想の状態といえます。
逆の方向もあります。地域の熱量が作品側を動かした例です。
鳥取県岩美町は、アニメ『Free!』のロケ参考地として自然発生的にファンが訪れるようになった町です。町観光協会は長年にわたってファンを受け入れ続け、放送開始から10周年を機に自ら京都アニメーションへコラボを打診し、公式コラボが実現しました。岩美町観光協会の公式情報によれば、描き下ろしイラストを使ったARフォトスポットや限定グッズ、コラボカフェなど町全体を巻き込んだ企画が展開され、2025年現在も継続しています。地域が誠実に作品とファンに向き合い続けることで、作品側も地域を大切にするという関係が育った例です。
現地での過ごし方まで考える
人が来ても、写真を撮って終わりでは地域の価値は広がりません。どこを歩くか、どこで休むか、どこに立ち寄るかまで含めて考えることが大切です。現地での体験設計が弱いと、訪れた人の記憶には「思ったより何もなかった」という印象が残りやすくなります。
反対に、作品を入口にしながら、その土地ならではの景色、食、買い物、街歩きまで自然につながっていければ、滞在の満足度は高まります。地域の飲食店や宿泊施設、土産物店が来訪者の動線に沿って存在していれば、一度の訪問が地域全体への好印象につながりやすくなります。こうした体験の連鎖をつくることが、がっかり聖地を防ぐもっとも確かな方法です。がっかり聖地を防ぐには、情報発信だけでなく、現地で過ごす時間の質が欠かせません。
来てよかったと思える体験にする
最終的に重要なのは、作品の名前ではなく、その地域でよい時間を過ごせたかどうかです。
作品を入口にしながら、景色、食、空気感、人との接点まで含めて、来てよかったと思える体験をつくれるかどうかが、その地域の評価を決めます。
観光庁がロケツーリズムを、ロケ地となった地域での持続的な観光振興につながる観光資源として位置づけているのも、来訪のきっかけを超えた先に地域との継続的な関係をつくることを重視しているからです。
来てよかったと感じた人は、再び訪れます。地域のことを誰かに話します。それがじわじわと広がっていくことが、持続的な観光振興の実態です。来訪のきっかけをどうつくるかだけでなく、その先にどんな記憶を持ち帰ってもらうかまで考えることが、聖地巡礼を一時的な話題で終わらせない鍵になります。
まとめ
聖地巡礼が教えてくれるのは、新しい観光資源は必ずしも一からつくるものではないということです。見慣れた景色や既存の施設でも、作品との接点や地域側の見せ方しだいで、新しい来訪理由になり得ます。
ただし、何でも聖地に見立てればよいわけではありません。作品との距離感を守りながら、地域の中にある気づきを丁寧に整理し、来てよかったと思える体験へつなげることが欠かせません。
話題性に頼るのではなく、地域そのものの魅力を積み重ねていく視点が、継続的な観光施策の土台になります。地域に人が来る流れをつくることは、一度の仕掛けで完成するものではなく、来た人に満足してもらい、また来たいと思ってもらうことの繰り返しによって育っていきます。聖地巡礼はそのきっかけになる可能性を持っていますが、その先をどうつくるかは地域の取り組み次第です。
見慣れた景色の価値を見直し、地域らしい来訪理由へ育てていく観光施策やプロモーションをご検討の際は、ぜひお問い合わせフォームからご連絡ください。
地域の担当者には見慣れすぎて気づきにくい景色でも、コンテンツの目線から見るとまったく異なる可能性が見えてくることがあります。地域の景色や歴史をどう活かすか、お気軽にご相談ください。






