2026年5月28日

マーケティング

方言は広告になる 地域の言葉がコピーを強くする理由

 

方言は、広告コピーの中で不思議な力を持つ言葉です。標準語にすれば意味は伝わりやすくなりますが、その土地らしい温度や、人の顔が見えるような空気感は薄くなることがあります。一方で方言のまま使うと、地域の人には「自分たちの言葉」として届き、地域外の人には「なんだろう」と目に留まるきっかけになります。

ローカル広告では、方言を使ったコピーをよく見かけます。駅のポスター、商業施設のキャンペーン、自治体のPR、地元企業の商品広告など、地域に根ざした広告では、標準語では出しにくい親しみやすさを方言が担っています。
商品名でも、最初は地域の人に向けた表現として生まれた言葉が、全国で知られるブランド名に育つことがあります。意味がすぐには伝わらないからこそ、地域外の人にとって気になる名前になることもあります。鍵は、方言を珍しい言葉として置くだけで終わらせず、商品や地域、ブランドの姿勢ときちんと結びつけることです。

ここでは、方言を使った広告コピーや商品名の事例をもとに、地域の言葉が広告表現を強くする理由と、全国展開で気をつけたい考え方について説明します。

 

方言は広告に地域らしさを与える表現

広告コピーは、短い言葉で商品やサービスの魅力を伝えるものです。わかりやすさはもちろん大切ですが、それだけでは生活者の記憶に残りにくい場面もあります。そこで力を持つのが、その土地で使われてきた言葉です。方言には、意味だけでは伝えきれない空気感や距離の近さがあります。

地域の人に届く「自分たちの言葉」

方言を広告コピーに使う大きな理由は、地域の人にとって「自分たちの言葉」として受け取られやすいことです。標準語の広告コピーは全国の人に伝わりやすい一方で、どこか整いすぎた印象になることがあります。地元の店、自治体、地域イベントの広告では、整えられた言葉よりも、ふだん耳にする言葉のほうが心に入りやすい場面が多くあります。

たとえば、高知県で長く使われているキリンラガーの広告コピーに「たっすいがは、いかん!」があります。キリンの公式noteでは、この言葉とキリンラガー大瓶が大きく描かれた広告を、高知空港から県内の飲食店まで多くの場所で見つけられること、意味は「弱々しい、そんな元気ないようじゃ駄目だ!」だと紹介されています。標準語にすれば意味は伝わりますが、「たっすいがは、いかん!」という言い方には、高知の人が日常の中で感じる勢いや親しみが残ります。広告コピーの強さは、意味だけでなく、その土地の言葉として使われている点にあります。

ただし、方言を使えば必ず親近感が生まれるわけではありません。地域の人が見て不自然に感じる使い方や、実際の使われ方とずれている表現は、かえって違和感につながります。方言は便利な飾りではなく、地域の人が大切にしてきた言葉です。広告に使うときには、辞書的な意味だけではなく、どのような場面で、どのような気持ちで使う言葉なのかまで確認したいところです。

地域外の人の目に留まる「知らない言葉」

方言は、地域外の人にとっては見慣れない言葉として目に留まります。広告の中で知らない言葉に出会うと、人は一瞬立ち止まり、「これはどういう意味だろう」と考えます。情報があふれる中で生活者の視線を止めることは簡単ではないので、この最初の引っかかりは見過ごせません。

商品名でも同じです。すぐに意味がわからない名前でも、響きや言葉の並びが印象的だと、あとから調べたくなる、誰かに話したくなるという動きが生まれます。栗山米菓の公式ブランドサイトでは、ロングセラーの「ばかうけ」の「ばか」が、悪い意味の「馬鹿」とは違い、新潟県の方言で「すごい」という意味で使われていると説明されています。「ばかうまい」が「すごくおいしい」を意味するのと同じ用法です。標準語だけで考えると「ばか」という言葉は別の意味も持ちますが、「ばかうけ」になると、強い響きと親しみやすさを併せ持つ名前に変わります。

ただし、知らない言葉は、広告にとって魅力にも壁にもなります。意味がわからなくても楽しめるのか、パッケージや周辺の言葉で自然に補足できるのか、商品理解やブランド理解につながるのか。ここを考えないまま使うと、単なる言葉遊びで終わってしまいます。方言を使うときは、その壁をどう楽しさに変えるかが問われます。

標準語では出しにくい空気感

方言には、標準語では出しにくい空気感があります。同じ意味の言葉でも、地域の人がふだん使っている言葉には、声の調子や人との距離感が含まれています。短い言葉の中に、力強さ、親しみ、ゆるさ、あたたかさが入ります。

宮崎県小林市の移住促進PR「ンダモシタン小林」は、方言の空気感を生かした自治体PRの事例です。小林市の公式サイトでは、この動画が「てなんど小林プロジェクト」の一環として、移住促進をテーマに公開されたシティプロモーションムービーであることが説明されています。「てなんど」は、西諸弁で「一緒に」を意味する「てなむ」と「ブランド」を組み合わせた造語です。タイトルにある「ンダモシタン」自体も西諸弁で、「何ということだろう」「おやまあ」といった意味を持つ言葉だと、市のページや関連メディアで紹介されています。長く小林市に住んでいるという設定のフランス人男性が、フランス語に聞こえる西諸弁で語りながら市の魅力を紹介する構成で、方言が地域のあり方や人とのつながりを表す表現として機能しています。

ただし、すべての広告に方言が合うわけではありません。高級感、精密さ、先進性、専門性を強く打ち出したい広告では、方言が印象をやわらげすぎる場合があります。方言を使う前に、その広告で伝えたい印象を整理しておくことが必要になります。

 

方言を使った商品名と広告コピーの実例

方言は、広告や商品名の中でどのように使われているのでしょうか。ここでは、商品名、期間限定の商品企画、地域に根づいた広告コピーの事例を見ていきます。いずれも、方言をただ珍しい言葉として使っているのではなく、商品や地域の印象と結びつけている点が特徴です。

「ばかうけ」に見る方言由来の商品名の広がり

方言由来の商品名として、わかりやすい事例のひとつが「ばかうけ」です。先ほども触れたとおり、栗山米菓の公式ブランドサイトでは、「ばか」は新潟弁で「すごい」という意味だと説明されています。「ばかうけ」という名前には、「すごくウケる」という意味合いが込められています。

標準語だけで考えると、「ばか」という言葉には強い印象があり、場合によっては乱暴に感じられることもあります。「ばかうけ」になると、その強さが親しみやすさや勢いに変わります。短くて覚えやすく、音の響きにも力があり、店頭で目に留まる名前になっています。商品名は、広告コピーと同じく生活者との最初の接点ですから、印象に残らなければ手に取ってもらうきっかけは弱くなります。その点で「ばかうけ」は、方言の持つ強い響きをうまく使った名前です。

見逃せないのは、方言を使っていても意味が完全にわからないまま置き去りにされていない点です。「ばかうけ」という言葉は、方言を知らない人にも、「とても受けている」「人気がありそう」という雰囲気がなんとなく伝わります。正確な語源を知らなくても、名前の方向性が大きく外れません。方言を全国向けの商品名に使うとき、この「なんとなく伝わる」感覚は欠かせない要素です。

「方言ばかうけシリーズ」に見る全国向けの遊び心

栗山米菓は2018年3月、「方言ばかうけシリーズ」を全国販売しています。プレスリリースの記事によれば、北海道の「なまら」、仙台の「いぎなり」、名古屋の「でら」、大阪の「めちゃ」、博多の「ばり」と、いずれもその土地で「すごい」を意味する方言を、その地域の名物の味と組み合わせています。具体的には、ホタテバター味、牛タン風味、手羽先風味、たこ焼き風味、からし明太子味の5品で、「ばかうけ」のロゴマークも期間限定で各地仕様に差し替えられました。

この企画が興味深いのは、方言を単なる文字の飾りとして使っていない点です。方言、味、地域イメージがひとつのパッケージの中でつながっています。たとえば「博多のばりばかうけ からし明太子味」と聞くと、言葉の響きと味のイメージが一緒に伝わります。地域の言葉と地域の味が組み合わさることで、商品全体にご当地感が生まれます。

全国販売で方言を使う場合、地域の人だけに伝わればよいわけではありません。地域外の人が「これはどこの言葉だろう」「この味はどんな味だろう」と興味を持てるかどうかが問われます。「方言ばかうけシリーズ」は、もともとのブランド名に方言の要素があり、そこから各地の方言へ広げている点が自然です。ブランドの土台と企画の方向性が合っているため、方言の使い方に無理がありません。

「たっすいがは、いかん!」に見る地域広告の強さ

広告コピーとして方言を使った事例では、すでに紹介したキリンラガーの「たっすいがは、いかん!」があります。「弱々しいのは駄目だ」と言われると、少し説明的です。「たっすいがは、いかん!」と言われると、言葉に勢いがあります。短く、強く、声に出したときのリズムもあります。高知の人にとっては、ただ意味がわかるだけでなく、土地の空気や人の気質のようなものまで感じられる表現ではないでしょうか。

このコピーが強いのは、商品と地域の関係が見えるからです。単に高知の方言を使って目立たせているのではなく、高知という地域と、ビールという商品と、人の元気や勢いを結びつけています。方言が、商品を説明する言葉ではなく、地域との約束や応援の言葉のように働いています。地域の人が自分たちの言葉として受け入れ、企業のメッセージと重なったとき、方言コピーは強くなります。

方言を使った広告コピーは、標準語よりも意味が伝わりにくい場合があります。地域の中で使う場合には、その伝わりにくさよりも、親しみやすさや納得感のほうが大きな力を持ちます。地域の人に向けた広告では、「正しく説明すること」と同じくらい、「自分たちの言葉で語られていること」が効くのです。

 

全国展開で方言コピーが与える影響

方言を使った広告コピーや商品名は、地域の中だけで完結するとは限りません。ローカル広告として始まった言葉が、SNSや動画、ニュースを通じて地域外に広がる場合もあれば、最初から全国販売の商品やキャンペーンに方言の要素を取り入れる場合もあります。全国展開では、方言は「地域の人に伝わる言葉」から、「地域外の人にどう受け止められるかを考える言葉」に役割が変わります。

記憶に残りやすい表現になる可能性

広告にとって、記憶に残ることは大きな意味を持ちます。生活者は毎日、駅のポスター、テレビCM、店頭のPOP、SNSの投稿など、数えきれないほどの広告に触れています。商品名やコピーが似たような言葉になればなるほど、記憶には残りにくくなります。

方言には、この「似たような言葉」から少し外れる力があります。標準語の広告コピーが並ぶ中に聞き慣れない方言が入ると、そこに小さな違和感が生まれ、「なんだろう」と思わせることが記憶の入口になります。短く、声に出しやすく、リズムがある言葉であれば、意味を正確に知らなくても残ります。「博多」「大阪」「名古屋」といった地名だけでも地域性は伝わりますが、そこに「ばり」「めちゃ」「でら」が加わると、より人の声に近い印象になります。地名は場所を示し、方言はそこで暮らす人の存在を感じさせます。

ただし、記憶に残ることと、好意的に受け止められることは別の話です。意味がわからないまま不快に感じられたり、商品との関係が見えずに奇をてらった印象になったりする恐れもあります。方言が目立つ理由と、商品を選ぶ理由がつながっているとき、方言コピーは広告表現として強くなります。

意味が伝わらないことで生まれる興味

方言を全国展開で使うとき、避けて通れないのが「意味が伝わらない」という問題です。地域の人にはすぐにわかる言葉でも、地域外の人にはわからない場合があります。広告は伝えるためのものですから、意味が伝わらない言葉を使うことにはリスクがあります。

しかし広告や商品名では、わからなさが興味につながる場合もあります。少しだけわからないもの、でも何か楽しそうなもの、意味を知りたくなるものに人は目を向けます。方言は、知らない外国語のように遠すぎるわけではなく、日本語としての響きはあるのに、地域によっては意味がすぐにはわかりません。この近さと遠さの間に、広告としての面白さが生まれます。

鍵になるのは、意味を知る導線を自然につくることです。商品名やメインコピーに方言を使い、サブコピー、パッケージ、Webページ、店頭POPで意味を補う。最初に方言で目を引き、次に意味を知って納得する流れができると、方言は単なるわかりにくい言葉ではなく、商品や地域への入口になります。SNSでは、「これ、どういう意味だろう」と話題になることで広告の広がりにもつながります。説明しすぎないことも工夫のひとつで、長い注釈は広告の勢いを落とすため、見た目や周辺情報で自然に意味が想像できる形にしたいところです。

誤解や違和感につながるリスク

方言コピーには魅力がある一方で、使い方を誤ると誤解や違和感につながります。全国展開では、ある地域では自然に受け取られる言葉でも、別の地域では意味が違って見えたり、強すぎる印象を与えたりすることがあります。「ばかうけ」の「ばか」のように、新潟弁では「すごい」という意味でも、標準語では別の印象を持つ言葉もあります。商品名や文脈の整え方で誤解は和らげられますが、確認は欠かせません。

地域外の企業が方言を使う場合は、地元の人から見た違和感にも注意が要ります。発音、語尾、使う場面、話す相手との関係など、方言には細かな感覚があります。辞書的な意味だけを調べて使うと、言葉としては合っていても、広告としては浮いてしまう恐れがあります。雑に扱われたと感じられると、親近感ではなく反発につながる可能性すらあります。

おもしろがりすぎることにも気をつけたいところです。地域外の人にとって珍しい言葉でも、地元の人にとっては日常の言葉です。広告の中で過度に笑いの対象にしたり、響きだけを誇張したりすると、地域を軽く扱っているように見えてしまいます。地域の人と地域外の人の両方を想像し、商品やブランドの印象を損なわないかを確認することで、方言コピーのリスクは抑えられます。

 

方言コピーを広告に使うときの考え方

ここまで見てきた事例から、方言コピーを使うときに押さえておきたい考え方を整理しておきます。鍵になるのは、地域との関係、意味の伝え方、そして商品やブランドとの相性の3点です。

地域との関係を先に確認すること

まず確認したいのは、企業や商品がその地域とどのような関係を持っているかです。地域の言葉は、その土地の人にとって身近なものです。自然に使われていれば親しみにつながりますが、関係が薄いまま方言だけを使うと、言葉を借りているだけに見えてしまいます。
「たっすいがは、いかん!」が地域広告のコピーとして印象に残るのも、その土地で長く受け止められてきた言葉だからです。「ばかうけ」が全国に広がったのも、ブランド名と新潟弁の関係が一貫していたためです。

方言を使う前には、その言葉が本当にその地域で使われているのか、どの世代に通じるのか、辞書的な確認だけではなく、地域の人の感覚に近い確認が必要になります。同じ県内でも地域によって言い方が違うことがありますし、若い世代にはあまり通じない言葉もあります。広告として使うなら、Web上の説明だけで判断するのではなく、現地の人の声を聞いてから決めたいところです。

意味を説明しすぎない工夫

方言は、地域外の人にとって意味がわからないことがあります。
全国展開や広域展開を考えるなら、意味をまったく説明しないまま使うのは不親切ですが、すべてを丁寧に説明しすぎると、方言が持っている勢いや余白が弱くなります。広告コピーは説明文ではありません。少しわからないからこそ気になる、というところも方言の魅力のひとつです。

「方言ばかうけシリーズ」のように、地域の味や地名と組み合わせて意味を補う方法もあります。短い補足、見た目で伝わるデザイン、味や地名との組み合わせなど、自然に意味が想像できる形にすることで、方言の魅力を残したまま伝えやすくなります。

商品やブランドに合う言葉を選ぶこと

方言コピーを成功させるには、商品やブランドとの相性も欠かせません。
方言には、親しみやすさ、あたたかさ、勢い、ゆるさ、土地らしさといった印象があります。食品、観光、地域イベント、商業施設、地元企業のサービスなど、暮らしに近い領域では自然に働きます。一方で、高級感、先進性、専門性、正確さを強く伝えたい場合には、方言が印象をやわらげすぎることもあります。

言葉の強さにも目配りが要ります。地域の人には自然でも、全国の人にはきつく感じられる言葉もあれば、その逆もあります。「地域らしさを出したいのか、親しみを出したいのか、記憶に残したいのか、SNSで話題にしたいのか」を明確にしてから言葉を選ぶと、方言が目的に沿って働きはじめます。

 

まとめ

方言は、広告コピーや商品名に強い印象を与える言葉です。標準語のように広く正確に伝える力とは別に、その土地らしさや人の気配を伝える力があります。地域の人にはふだんの暮らしに近い言葉として届き、地域外の人には少し見慣れない言葉として目に留まり、意味を知りたくなるきっかけになります。

ローカル広告で方言が使われるのは、単に目立つからではなく、地域の人に「自分たちに向けられた広告だ」と感じてもらいやすくなるからです。全国展開では方言の見え方が変わり、わからなさはリスクにも興味の入口にもなります。「ばかうけ」のように方言由来の商品名が全国ブランドに広がる例、「方言ばかうけシリーズ」のように各地の方言と地域の味を組み合わせる例、キリンラガーの「たっすいがは、いかん!」のように地域の言葉が広告コピーとして長く残る例、そして「ンダモシタン小林」のように方言を自治体PRの中心に据えた例まで、いずれも方言を珍しい言葉として置くだけで終わらせず、商品や地域との関係を丁寧に重ねています。

方言が広告を強くするのは、言葉そのものが面白いからだけではありません。その言葉を使う理由が、商品や地域の中にきちんとあるからです。方言は、広告のために作られた飾りではなく、その地域で暮らす人たちが使ってきた生活の言葉です。使うときには、地域の人が見ても違和感がないか、地域外の人にも楽しめる入口があるか、商品やブランドの印象と合っているかを丁寧に確認することが、広告表現として力を持つ条件になります。

方言は、広告にあたたかさを加えることもできますし、勢いを出すこともできます。地域らしさを伝えることもできれば、少し不思議な言葉として記憶に残ることもあります。標準語だけでは出しにくい空気感を、短いコピーや商品名の中に込められる表現です。ただし、方言を使うこと自体が目的になってはいけません。誰に向けて、何を伝えるために、その言葉を選ぶのか。目的がはっきりしているほど、方言は広告の中で自然に働きはじめます。

地域の言葉をどう広告に生かすか、どのようなコピーなら生活者に自然に届くか、ローカル広告から全国展開まで含めて設計したい場合は、ぜひ一度ご相談ください。お問い合わせフォームからご連絡いただければ、媒体選定からコピー設計までお手伝いします。

 

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