2026年2月3日
マーケティング4月、人が動けば目が変わる 新生活シーズンに届く広告の条件
前回のコラムでは、広告を続けることの意味について書きました。
繰り返し目にすることで認知が深まり、「知っている」から「選ばれる」へと変わっていく。交通広告やOOHは、同じ人に繰り返し見てもらえるからこそ効果がある、という話でした。
では、その「同じ人」が入れ替わるとしたら、どうなるでしょうか。
4月は、人が動く季節です。総務省の住民基本台帳人口移動報告によれば、2025年3月の市区町村間移動者数は約90万5000人。通常月の2倍以上です。住所が変わり、通勤ルートが変わり、目にする広告も変わる。広告接触の「顔ぶれ」が一斉に入れ替わるのが、この季節です。
ここでは、春の広告出稿を検討している方に向けて、新生活シーズンならではの広告の届け方を整理していきます。
目次
春は広告接触が「リセット」される季節
交通広告やOOHの強みは、同じ人に繰り返し見てもらえることです。
毎日同じ駅を使う人に、毎日同じ広告を見せ続ける。その繰り返しが記憶に残り、想起につながる。前回のコラムで書いた通り、継続出稿にはそういう役割があります。
ただ、4月はこの「繰り返し」が一度リセットされる時期でもあります。
通勤ルートの変化が広告接触を変える
転勤で東京から大阪に移った人は、山手線の広告を見なくなります。新入社員として丸の内に通い始めた人は、東京駅の広告を毎日見るようになります。学生から社会人になった人は、通学で使っていた路線から通勤用の路線に切り替わります。
地方から上京してきた新入社員を例に考えてみましょう。その人は、地元で見ていた広告をすべて見なくなります。地元のスーパー、地元の自動車ディーラー、地元の不動産会社、地元の塾。そうした広告との接触が、ある日を境にゼロになります。代わりに、東京の電車内広告、東京の駅貼りポスター、東京の屋外看板が、毎日の視界に入ってきます。
逆のパターンもあります。東京から地方に転勤した人は、東京で見慣れていた広告を見なくなり、赴任先で新しい広告群に出会います。
失う接触と得る接触
この変化は、広告主にとって二つの意味を持ちます。
一つは、これまで積み上げてきた接触がゼロに戻る人がいること。継続出稿してきた広告でも、その広告を見ていた人が別の場所に移ってしまえば、接触は途切れます。何か月もかけて純粋想起を獲得していた顧客が、物理的に接触できなくなる。これは避けられないことです。
もう一つは、新しい目がやってくること。これまでその場所を通らなかった人が、4月から毎日通るようになる。まったく新しい層に広告が届き始めるチャンスです。これまで認知がなかった人に、ゼロから接触を積み重ねていくことができます。
この二つは表裏一体です。失う接触もあれば、得る接触もある。春は、広告接触の「顔ぶれ」が入れ替わる季節なのです。これを「リセット」と捉えるか「入れ替え」と捉えるかで、広告戦略は変わってきます。
新生活者は「情報を探している」状態にある
4月に動く人たちには、もう一つ特徴があります。それは「情報を探している」という状態にあることです。
すべてが初めての街で暮らす

引っ越したばかりの人は、新しい街のことをまだよく知りません。
最寄りのスーパーはどこか。美味しい飲食店はあるか。クリーニング店は近くにあるか。銀行のATMはどこにあるか。病院や歯科医院は? 郵便局は? 生活に必要な情報を、一から集めなければなりません。
これは、すでにその街に住んでいる人とはまったく違う状態です。長く住んでいる人は、どの店が安いか、どの道が混むか、どの時間帯が空いているか、すでに知っています。情報を探す必要がないので、街中の広告にも関心が薄い。でも新生活者は違います。すべてが初めてなので、情報に対してオープンな状態にあります。
新社会人の消費行動
新入社員も同じです。
仕事に必要な知識を吸収しようとしている時期ですし、社会人としての生活を整えるために様々な買い物をします。スーツ、靴、鞄、名刺入れ、通勤用の定期券、ビジネスバッグ。人によっては一人暮らしを始めるタイミングで、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、ベッド、カーテンなども必要になります。
引っ越しに伴う購買は、金額も大きくなります。新生活の初期費用として、家賃の数か月分に加えて、家具家電の購入費用、引っ越し代などで数十万円かかることも珍しくありません。それだけの買い物をするわけですから、情報収集にも熱心になります。
博報堂生活総研の調査によれば、3月は新生活準備に向けて消費意欲が高まる月です。「旅行」「外食」「ファッション」「家電」など複数のカテゴリで消費意向が上昇しています。新生活準備や春物の衣服といった「春支度消費」への意欲は、毎年この時期に高まります。
広告を見る準備ができている人たち
つまり新生活者は、情報に対して「開いている」状態にある。
普段なら素通りする広告でも、自分に関係がありそうだと思えば目を止めます。「新生活応援」「引っ越しキャンペーン」といったメッセージが春に多いのは、それが新生活者の関心に刺さるからです。
この「情報を探している」という状態は、広告にとって非常に有利です。
広告は基本的に「見てもらう」ことが難しいメディアです。テレビCMはスキップされ、Web広告は非表示にされ、街中のポスターは視界に入っても意識されない。でも、情報を探している人は違います。自分に関係のある情報を積極的に探しているので、広告を「邪魔なもの」ではなく「役に立つもの」として受け取ってくれる可能性があります。
言い換えれば、新生活者は「広告を見る準備ができている」人たちです。この層に適切なメッセージを届けることができれば、通常よりも高い確率で反応が返ってきます。
「新しい目」に届く場所を選ぶ
春に広告を出すなら、「新しい目」がどこにあるかを考える必要があります。
人の流れが変わる場所
まず考えたいのは、人の流れが変わる場所です。
オフィス街の最寄り駅、大学の最寄り駅、新興住宅地の最寄り駅。こうした場所には、4月から新しく通い始める人が集まります。
東京でいえば、大手町、丸の内、新宿、渋谷、品川といったビジネス街の駅は、新入社員や転勤者が増える場所です。また、大学が集まる御茶ノ水、早稲田、三田といったエリアは、新入生が増える場所です。
地方都市でも同じことが言えます。県庁所在地のターミナル駅、大企業の工場がある駅、大学のキャンパス最寄り駅。そうした場所には、春になると新しい顔ぶれが現れます。
業種によって、狙うべき場所は変わります。BtoB向けのサービスなら、ビジネス街に通う層を狙う。学生向けのサービスなら、大学周辺を狙う。ファミリー向けのサービスなら、新興住宅地や子育て世帯が多い沿線を狙う。自社のターゲットが「春にどこを通るようになるか」を考えることが、場所選びの出発点です。
新生活者が立ち止まる場所
次に考えたいのは、新生活者が「立ち止まる」場所です。
不動産会社の前、家電量販店の周辺、ホームセンターの近く、引っ越し業者の営業所付近。新生活者はこうした場所に用事があるので、周辺の広告にも目が向きやすくなります。
銀行の支店前、携帯ショップの近く、家具店の周辺なども同様です。新生活に伴って銀行口座を開設する、携帯電話の契約を見直す、家具を買い揃える。そうした行動をとる人が集まる場所は、新生活者への接触機会が高まります。
知らない街を歩く人の視線
また、新しい街を歩き回るという行動自体が、広告接触の機会を増やします。
通い慣れた街では、人は最短ルートで目的地に向かいます。駅から会社まで、会社から昼食の店まで、同じ道を歩くことが多い。でも、知らない街では、店を探したり道を確認したりしながら歩く。その分、街中の看板やポスターが目に入りやすくなります。
駅構内の広告も、新生活者には新鮮に映ります。毎日同じ駅を使っている人は、駅の広告を「風景」として見ていることが多い。でも、初めて使う駅では、周囲をキョロキョロ見ながら移動します。改札の位置を確認し、出口の案内を見て、乗り換えの経路を探す。その過程で、広告も視界に入りやすくなります。
繰り返し接触できる媒体を選ぶ
新しい目に届いたとしても、一度きりの接触では記憶に残りにくい。前回のコラムで書いた通り、認知を深めるには繰り返しの接触が必要です。
春に広告を出すなら、繰り返し接触できる媒体を選ぶことが効果的です。
通勤経路に置く交通広告
交通広告は、この点で優れています。
新入社員が4月から毎日同じ電車に乗るなら、その車内に広告を出しておけば、毎日接触が積み重なります。最初は意識しなくても、何度も目にするうちに「あの広告」として認識されるようになる。
電車内のサイネージ広告は、特に接触効率が高い媒体です。乗車中は手持ち無沙汰になることが多く、動く映像には自然と目が向きます。通勤時間が往復1時間だとして、その間に同じ広告を複数回見ることもあります。
駅の広告も同じです。改札を通るたびに目に入る位置にあれば、毎日2回は接触できます。朝と夕方で同じ広告を見ることで、記憶への定着が進みます。駅のホームにある広告なら、電車を待つ数分間、繰り返し視界に入ります。
看板広告と通勤ルート
看板広告の場合は、通勤ルート上にあるかどうかがポイントになります。
駅から会社までの道沿いにある看板なら、毎日の徒歩移動で接触できます。逆に、たまにしか通らない場所にある看板は、接触頻度が低くなります。
ここで大事なのは、新生活者が「これから形成するルーティン」を想像することです。4月から新しい会社に通い始める人は、自宅から会社までの経路を毎日繰り返します。その経路上に広告を置いておけば、その人に対しては毎日接触できることになります。
新しい日常の中に広告を置く
新生活者は、4月から新しいルーティンを形成し始めます。
どの電車に乗るか、どの車両に乗るか、どの出口を使うか、どの道を歩くか。最初の数週間で習慣が決まり、あとはその習慣を繰り返すことになります。その「新しい日常」の中に広告を置いておけば、これから先、何か月も継続して接触を積み重ねられます。
4月に広告を始めることには、そういう意味があります。新生活者のルーティンが固まる前に認知を獲得し、その後の繰り返し接触で想起を深めていく。スタートダッシュとしての春の広告出稿です。
「役に立つ情報」として届ける
新生活者に届ける広告は、「役に立つ情報」として設計するのが効果的です。
先ほど書いた通り、新生活者は情報を探している状態にあります。自分に関係のある情報であれば、積極的に受け取ってくれます。逆に言えば、自分に関係ないと思われれば、視界に入っても素通りされます。
自分向けの情報だと認識させる

「新生活応援」「引っ越しキャンペーン」「新入社員向け」「新学期スタート」といった言葉をクリエイティブに入れるのは、新生活者に「これは自分向けの情報だ」と認識してもらうためです。自分ごと化できれば、広告を見てもらえる確率は上がります。
もう一つ大事なのは、具体的なメリットを伝えることです。「新生活応援」だけでは、何がどう応援されるのかわかりません。「引っ越し後1か月以内のご契約で〇〇」「新入社員の方限定で〇〇」「4月末までの入会で〇〇」といった形で、具体的なメリットを示す方が響きます。
新生活者の課題に寄り添う
特に効果的なのは、新生活者特有の課題を解決するメッセージです。
「慣れない街での生活をサポート」「通勤時間を有効活用」「一人暮らしの食事を応援」など、新生活者が抱えがちな悩みに寄り添う内容であれば、共感を得やすくなります。
新生活者は、これから様々なサービスを選ぶことになります。どの銀行口座を使うか、どの通信会社を使うか、どのスーパーで買い物するか、どのジムに通うか、どの美容院に行くか。こうした選択の多くは、最初に選んだものをそのまま使い続けるケースが多い。一度契約したサービスを、わざわざ乗り換える人は少数派です。
最初の選択に入り込む
だからこそ、新生活のタイミングで認知を取ることには価値があります。最初に思い出してもらえれば、最初の選択肢に入る。最初に選んでもらえれば、長い付き合いになる可能性があります。
業種によっては、春が「顧客獲得の勝負どころ」になります。携帯電話、銀行、保険、フィットネスジム、定期購入サービスなど、一度契約すると継続利用されやすいサービスは、新生活シーズンの広告投資が長期的なリターンにつながります。
春の広告出稿で気をつけること
春は広告出稿のチャンスですが、注意すべき点もあります。
競合との差別化
一つは、競合も同じことを考えているということです。
新生活シーズンは広告出稿が増える時期です。駅や電車内には様々な広告が並び、新生活者の目を奪い合うことになります。
埋もれないためには、メッセージを絞り込むことが大切です。あれもこれも伝えようとすると、結局何も伝わらない。「新生活者に、この一点だけは伝えたい」というメッセージを明確にして、それを端的に表現する。情報過多の環境では、シンプルなメッセージの方が届きます。
クリエイティブの工夫も必要です。目を引くビジュアル、印象に残るコピー、他社とは違う切り口。同じ時期に同じような広告が並ぶ中で、「あの広告」として覚えてもらうには、何らかの差別化が要ります。
媒体の空き状況
もう一つは、媒体の空き状況です。
人気のある駅や路線は、春の枠がすぐに埋まります。4月に広告を出したいなら、早めに枠を押さえておく必要があります。年明けから動き始めるのが理想的ですが、3月に入ってからでも空いている枠はあるので、代理店に相談してみてください。
特に駅のジャック広告や大型ビジョンなど、目立つ媒体は競争が激しくなります。第一希望の媒体が取れなかった場合の代替案も、あらかじめ考えておくと良いでしょう。
メッセージの賞味期限
三つ目は、メッセージの賞味期限です。
「新生活応援」というメッセージは、4月には響きますが、5月後半になると季節外れになります。長期出稿を考えている場合は、時期によってクリエイティブを変える、あるいは季節を問わないメッセージにしておく、といった工夫が要ります。
たとえば、4月は「新生活応援キャンペーン」として出稿し、5月以降は「はじめての方限定」のような通年で使えるメッセージに切り替える、という方法もあります。最初から複数パターンのクリエイティブを用意しておくと、切り替えがスムーズです。
Webとの連動
四つ目は、Webとの連動です。
新生活者は、気になった広告をスマートフォンで検索する傾向があります。広告で興味を持った人が、検索した時に適切な情報にたどり着けるよう、WebサイトやSNSの準備も並行して進めておくと良いでしょう。「新生活」「引っ越し」といったキーワードでの検索流入を想定したコンテンツを用意しておくことも、広告効果を高める一つの方法です。
継続と「新しい目」を両立させる
ここまで読んで、継続出稿と新生活シーズンの広告は矛盾しないのか、と思った方もいるかもしれません。
前回のコラムでは「広告は続けることに意味がある」と書きました。今回は「春は新しい目がやってくるチャンス」と書いています。継続すべきなのか、それとも新規を狙うべきなのか。
答えは「両方」です。むしろ、両方を同時に実現できるのが、春の広告出稿の魅力です。
継続している企業にとっての春
継続出稿している企業にとって、春は新しい層を獲得できるチャンスです。
これまで接触できていなかった人たちが、4月から自社の広告を見るようになる。継続出稿を続けていれば、新しい顔ぶれにも繰り返し接触できます。既存の認知を維持しながら、新規の認知を獲得する。一石二鳥の効果が期待できます。
これから始める企業にとっての春
一方、これまで広告を出していなかった企業にとっても、春は始めるのに良いタイミングです。
新生活者という「情報を探している」層にアプローチでき、そこから認知を積み上げていくことができます。新しいルーティンが形成される時期に認知を獲得できれば、その後の継続接触で想起を深めていくことができます。
継続出稿の価値は、春に限らず一年を通じて発揮されます。ただ、春は「新しい目」が加わることで、その価値がより大きくなる時期なのです。
広告は「続けること」と「始めること」の両方が大事です。続けている企業は春に新規層を取り込み、これから始める企業は春を起点に継続出稿を始める。どちらの立場であっても、春は広告を考える良い機会です。
地域によって「春」の意味が違う
一口に春の広告と言っても、地域によって人の動き方は異なります。
大都市圏は転入が集中する

東京、大阪、名古屋といった大都市圏は、春に転入が集中します。地方から上京する学生や新社会人、他の地域から異動してくるビジネスパーソン。新しい顔ぶれが大量に流入するので、新規層へのアプローチに向いています。
地方都市での考え方
一方、地方都市では逆の動きもあります。地元を離れて都市部に出ていく若者が多い地域では、春は顧客が減る時期でもあります。ただ、地方にも転勤で新しく来る人はいますし、Uターン就職で戻ってくる人もいます。数は少なくても、「新しい目」は確実に存在します。
地方での広告出稿を考える場合、どこに新しい顔ぶれが集まるかをよく考える必要があります。県庁や市役所の近く、大企業の支社がある地区、医療機関が集中するエリア。転勤者が住む可能性が高い場所を狙うのが効果的です。
地元に残る人の変化にも注目
また、地方都市には「残る人」もいます。
地元で就職した新社会人、地元の大学に進学した学生。こうした層は住所が変わらなくても、生活パターンは変わります。学生から社会人になれば通勤先が変わり、目にする広告も変わる。地方であっても、春は広告接触の変化が起きる時期です。
まとめ
4月は人が動く季節です。
住所が変わり、通勤ルートが変わり、目にする広告も変わります。総務省の統計によれば、3月から4月にかけての人口移動は年間で最も多く、90万人を超える人が住所を変えます。
この変化は、広告接触の「顔ぶれ」が入れ替わることを意味します。これまで接触できていた人が離れることもありますが、新しい層に接触できるようになるチャンスでもあります。
新生活者は、情報を探している状態にあります。新しい街のこと、新しい生活に必要なものを知りたがっている。広告を「役に立つ情報」として受け取ってくれる可能性が高い層です。消費意欲も高まる時期なので、適切なメッセージが届けば、行動につながりやすい。
春に広告を出すなら、人の流れが変わる場所を選ぶこと、繰り返し接触できる媒体を選ぶこと、新生活者に「自分向けの情報だ」と思ってもらえるメッセージにすること。この三つを意識してみてください。
継続出稿と春の広告は矛盾しません。むしろ、春は継続出稿の価値がより高まる時期です。新しい目に認知を獲得し、そこから繰り返しの接触で想起を深めていく。その起点として、春は良いタイミングです。
4月から新しい生活を始める人たちの目に、あなたの会社の広告が届くように。春の広告出稿についてお悩みの方は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。






