2026年5月8日
マーケティング写真素材の落とし穴 人物・建物・車を広告に使う前に確認したいこと
企業サイトや広告で使う写真は、見た目の印象を左右する大事な素材です。その一方で、使いやすそうに見える写真ほど、あとから思わぬトラブルにつながることがあります。
人物が写っていれば肖像の問題が気になりますし、建物が写っていれば施設ごとのルールや背景物の扱いが関わることもあります。車の写真も、ナンバーを隠せばそれで十分とは言い切れず、画像全体の情報から特定につながるおそれが残る場合があります。
自社で撮影した写真でも、フリー素材でも、広告として使うなら確認しておきたい点は少なくありません。
ここでは、人物・建物・車の写真を広告に使う前に、どこを確認すべきかについて説明します。
写真の権利は一つではない
写真を広告や企業サイトに使うときに迷いやすいのは、ひとつの画像の中に、いくつもの権利や利益が重なっているからです。撮影者の著作権はそのひとつにすぎず、それだけで判断を終えるわけにはいきません。
撮影者の許諾があっても使えるとは限らない

自社で撮影した写真だから自由に使えると考えてしまうことがあります。ですが、そこで確認できているのは、多くの場合「誰が撮ったか」という一点です。
写真の著作権が撮影者にあるとしても、人物が写っていれば被写体の人格的利益を別に見なければなりません。
最高裁は、みだりに自己の容ぼう等を撮影され、これを公表されない人格的利益は法的に保護されると示しています。つまり、写真を使う側が「写っている人のことは気にしなくてよい」と考えてよいわけではありません。
社内では素材手配の話に見えていても、法的には「誰が撮ったか」「誰が写っているか」「何のために使うか」を分けて考える必要があります。この三つは、それぞれ別の問題です。ひとつが済んでいても、残りの二つが宙に浮いていることがあります。
対象ごとに確認すべき論点が変わる
写真の中に何が写っているかによって、確認の内容は大きく変わります。
人物であれば、その人の肖像に関わる配慮が必要です。著名人であれば、その知名度や印象を集客のために使っていないかという論点が加わります。建物については、建物そのものの扱いと、背景に写り込んだポスターや展示物を別に見なければならない場面があります。
文化庁は、写り込みの規定について、撮影対象から切り離しにくく軽微に入り込む場合と、写り込んだ著作物そのものを見せる使い方とでは、扱いが異なることを解説しています。車の写真では、ナンバーだけを確認すればよいわけでなく、ほかの情報と組み合わさったときに特定につながるかどうかまで見る必要があります。
こうして並べてみると、ひとつの画像の中に、複数の確認先と複数の論点が同時に存在していることが分かります。「写真の権利処理が難しい」と言われるのは、ルールが複雑なのではなく、ひとつの答えで全部片づけられる問題ではないからです。
広告での使用は記事や資料への掲載より慎重に考える
写真の扱いで見落としやすいのは、使う目的によってリスクの見え方が変わることです。
最高裁は、著名人の氏名や肖像等について、商品等の広告として使用するなど、専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合にはパブリシティ権侵害となり得ると示しました。
同じ写真でも、制度説明の記事の中で補足するイメージカットと、商品やサービスの印象づけのために使うバナーとでは、意味がまったく違います。裁判例でも、写真のサイズ、掲載位置、記事全体の中での役割などを見ながら判断されています。
広告の写真は、単に載せるのではなく、売るために使う写真です。素材の見た目や入手経路が同じでも、どこに置いて何を訴えるかによって、受け止められ方は変わります。
最初の段階で、誰が写っているかだけでなく、何の訴求に使うのかまで確認しておくほうが、結果的に手戻りを減らせます。
人物写真で確認したいこと
人物写真は、広告でいちばん使いやすく、いちばん迷いやすい素材です。表情があると訴求力が出ますし、働く様子や日常の場面はサービスの雰囲気も伝えやすくなります。ただ、人物写真は見栄えのよい素材である前に、その人の容ぼうや印象そのものを扱う表現でもあります。
撮り方と使い方を分けて考える

人物写真でまず押さえたいのは、撮影の場面と掲載の場面は別の論点だということです。
街頭やイベント会場で撮った写真でも、公道だから、人が多い場所だから、そのまま広告に転用してよいとは限りません。最高裁が示した考え方では、違法性の判断は、被写体の社会的地位、撮影場所、目的、撮影の態様や必要性などを総合して決まります。
撮影時に大きな問題が見えなくても、あとから広告や販促に載せることで、被写体の印象や存在感そのものが利用される形になれば、見え方は変わります。
社内では「現場で撮った記録写真」のつもりでも、公開先が企業サイトのトップページやLP、バナーになれば、写真は説明ではなく訴求の役割を持ちます。顔がはっきり写っている写真、嫌がっている様子が伝わる写真、勤務先や生活圏が推測される写真、特定の文脈と結び付いて印象を固定してしまう写真は、使い方に慎重さが求められます。
また、一般の人物だから著名人ほど気にしなくてよい、という考え方も危険です。
著名人にはパブリシティの論点がありますが、一般の人物にも、みだりに撮影されないことや、容ぼう等を公表されないことに関わる人格的利益があります。とくに、採用サイトや導入事例のページでは、社員やユーザーの写真が自然な形で使われることが多く、撮影時に許諾を取っていたとしても、その後の掲載先や使われ方が変わっていないか確認しておくことが大切です。
人物写真は、写真の中の要素ではなく、その人自身に触れている表現だと考えておくほうが、判断を誤りにくくなります。
著名人の写真は知名度や印象の利用が問題になる
著名人の写真で注意したいのは、単に無断使用かどうかだけではなく、その人の知名度や印象を集客のために使っていないかという点です。
最高裁はパブリシティ権について、氏名や肖像等は個人の人格の象徴であり、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があるとしたうえで、その吸引力を排他的に利用する権利として認めています。そして、商品の差別化や広告として使用するなど、専ら顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合には侵害となり得ると示しました。
著名人の写真を目立つ位置で使い、その知名度や印象で興味を引こうとする使い方は、かなり慎重に見たほうがよいということです。
ただし、著名人の写真がある=違法というわけではありません。ピンク・レディーの写真が雑誌記事に無断掲載された事案では、写真が記事内容を補足し、読者の記憶を喚起する目的で使われていたことなどから、専ら顧客吸引力の利用を目的とするものではないとして、違法とはいえないと判断されました。
ここで見ておきたいのは、写真の有無だけではなく、記事全体の中でその写真がどんな役割を持っているかです。
企業サイトの制作では、写真がただ添えてあるように見えても、画面の主役になっていることが少なくありません。素材のサイズ、掲載位置、文脈まで含めて見ないと、実態を見誤ります。
著名人の写真を扱う場合は、「なぜその写真でなければならないのか」を社内で言語化できる状態にしておくことが、判断を安定させるうえで大切になります。また、ファン向けの情報として話題の人物の画像を自社サービスの紹介と並べる使い方も、顧客吸引力の利用とみなされるおそれがありますので、関心を集めるための素材として著名人の写真を使う場合は、特に慎重に見ておく必要があります。
後ろ姿・シルエット・モザイクでも一律に安全とは言えない
顔を隠したから大丈夫という感覚で写真が使われることがありますが、実務ではそれほど単純ではありません。
個人情報保護委員会は、全身のシルエット画像等に置き換えたデータでも、抽出元のカメラ画像や個人識別符号等と容易に照合できる場合は個人情報に当たり得ると示しています。言い換えると、加工の有無よりも、画像や周辺情報から誰なのかが分かる状態かどうかが大事だということです。
顔が見えなくても、体形、髪型、服装、持ち物、立ち方、背景、撮影場所、周辺の説明文などがそろえば、見る人には誰か伝わってしまうことがあります。著名人や強い個性を持つ人物では、この問題がさらに大きくなります。
顔を全面的に見せていなくても、その人だと分かる雰囲気や印象を前面に出して集客に使っているなら、実務上は安全とは言いにくくなります。週刊誌やネット記事で見かけるような、シルエットだけで誰か分かる演出は、広告でも同じように気を付けて見ておく必要があります。
モザイクは万能の対策ではなく、全体の特定性を下げるための一手段として考えたほうが実務に合っています。隠した部分だけを見るのではなく、隠してもなお残っている情報を見る。この視点を持っておくと、「モザイクをかけたのに不安が残る」という状況はかなり減らせます。
判断に迷う写真は、加工で押し切るより、差し替えや再撮影、許諾の取り直しを先に検討したほうが安全です。
建物と車の写真で見落としやすいこと
人物写真は注意していても、建物や車の写真になると、少し気がゆるみやすくなります。人の顔が出ていないぶん、問題が少ないように見えるからです。ですが、実際にはここにも見落としやすい点があります。
広告で使う写真は、一枚だけで見られるとは限りません。企業名、店舗名、所在地、導入事例の説明文など、ほかの情報とセットで読まれることが多いため、画像だけを切り離して判断すると、公開後に想定外の見え方になることがあります。建物や車の写真は、人物写真より安全そうに見えるからこそ、確認を後回しにしないほうが安心です。
建物の外観は写っているものを分けて見る

建物の写真でまず大切なのは、建物そのものと、まわりに写っているものをいっしょに考えないことです。
広告や企業サイトでは、雰囲気のよい街並みや印象的な外観を使いたくなる場面がよくあります。このとき、建物が写っているから全部だめ、あるいは建物だから全部自由、とどちらかに寄せてしまうと判断を誤りやすくなります。
著作権法には、屋外に恒常的に設置された建築の著作物などについて利用を認める考え方があります。そのため、建物が写っているから直ちに使えないと決めつけるのは正確ではありません。ただし、そこに安心しすぎると、別の論点を見落とします。
実務では、建物そのものを見せたい写真なのか、その場所の空気感を伝えたい写真なのか、背景に別の著作物が入っていないかを分けて見るほうが整理しやすくなります。
商用利用では、写真の主役が何かをはっきりさせておくことが、最初の確認になります。建物の外観を撮ったつもりでも、実際には壁面のアート、看板、ポスター、展示物などが強く目に入る構図になっていることがあります。たとえば、おしゃれな街並みを背景に商品を撮影した写真では、建物の外壁に描かれたグラフィックやショーウィンドーの展示が意図せず目立つ構図になっていることがあります。そうなると、確認すべき対象は建物だけではなくなります。
背景に入ったポスターや展示物は建物とは別の論点になる
建物の写真で見落としやすいのは、背景に入った著作物です。
文化庁は、いわゆる写り込みの規定について、写真や映像を撮影するときに、撮影対象から分離することが難しいために入り込む著作物が、軽微な構成部分として写り込む場合には、一定の条件のもとで利用できると説明しています。
ここで逆に考えたいのは、背景に入っているからといって、いつでも問題にならないわけではないということです。
ポスターや絵画、展示物、キャラクターなどが写真の中で目立つ位置にあり、それ自体が見せ場になっているなら、単なる写り込みとして片づけにくくなります。
広告素材では、デザインやトリミングの段階で、背景物がむしろ目立ってしまうことがあります。撮影時には気にならなかったものが、公開時には主役に近い扱いになってしまうこともあります。広告に使う写真では、見せたいものと写り込んでしまったものを分けて考えることが、最初の確認になります。
建物写真を使うときは、建物そのものより背景物のほうがリスクになることもある。この視点を持っておくと、判断がかなり実務的になります。
車の写真はナンバーだけではない
車の写真でよくあるのが、ナンバーを隠したから大丈夫だろうという判断です。もちろん、ぼかしやマスキングを入れたほうが慎重な対応になる場面はあります。ですが、それだけで十分とは言い切れません。
個人情報保護委員会は、加工した情報でも、ほかの識別情報と容易に照合できる場合は個人情報に当たり得ると示したうえで、特定の個人を識別できる画像を取得する場合には、個人情報を取り扱うことになるとも示しています。ここから実務上いえるのは、隠した部分だけで判断するのではなく、画像全体や周辺情報と合わせたときに特定性が残るかを見る必要があるということです。
珍しい車種や限定色の車、特徴的なカスタムがある車、社名や店名の入った営業車、いつも同じ場所に停まっている車は、ナンバーを隠しても見る人には分かることがあります。さらに、その写真が店舗紹介、導入事例、アクセス情報、スタッフ紹介などと並んで掲載されれば、画像単体では曖昧でも、全体としては誰の車か、どこの会社の車かが推測されやすくなります。
広告や企業サイトでは、写真は必ず文脈の中で読まれます。だからこそ、ナンバーを隠したかどうかだけを確認して終えるのではなく、その車がほかの情報とつながったときにどこまで分かるかまで見ておく必要があります。車の写真で本当に見たいのは、隠した部分ではなく、隠しても残る情報です。
使う前に確認すべき順番
ここまで見てきたように、写真素材の判断は、一か所の確認だけでは足りません。大切なのは、公開の直前に慌てて加工で対応することではなく、使う前の段階で、どの論点がある写真なのかを整理しておくことです。
何が写っているかを最初に確認する

広告の写真を確認するとき、最初にやりたいのは、写っているものを要素ごとに分けて見ることです。
人物が写っているのか、著名人なのか、建物が主役なのか、背景にポスターや展示物があるのか、車のナンバーや社名が入っていないか。この切り分けをしないまま「この写真は使えそうか」と進めると、判断はぶれやすくなります。撮影者から使用許諾を得ていても人物の扱いが別に問題になることがありますし、建物の写真でも背景の著作物のほうが論点になることがあります。
この確認は、デザイン作業に入る前の段階で済ませておくと効果があります。
公開直前になると、写真を前提に制作が進んでいるため、少しでも不安があっても差し替えにくくなり、加工で無理に整えようとしがちです。写っているものを分解して考えるだけでも、使ってよい写真と慎重に扱うべき写真の差はかなり見えやすくなります。
人物、建物、背景物、車両、表示物。このように対象を細かく分けておくと、あとで確認漏れが起きにくくなります。社内で写真素材の確認ルールを共有していない場合は、このチェックの視点を簡単なかたちでまとめておくだけでも、担当者が変わったときの引き継ぎが格段にしやすくなります。
どこで何のために使うかを合わせて見る
同じ写真でも、使い方が変われば、受け止められ方は変わります。社内共有の資料に小さく載せる写真と、企業サイトのトップページやLPのメインビジュアル、バナー、チラシに大きく使う写真とでは、意味がまったく違います。
とくに広告では、写真は説明の補助ではなく、見る人の関心を引き、商品やサービスの印象をつくる役割を持ちます。写真をどこに置くか、どれくらい大きく見せるか、どんなコピーと組み合わせるかは、単なるデザインの問題ではありません。その写真が訴求の主役になっているかどうかを判断する材料になります。
店舗紹介、導入事例、採用ページなどは、周辺のテキストから場所や人物像が推測されやすく、画像単体では曖昧でも、ページ全体で特定性が強まることがあります。
個人情報保護法は、ほかの情報と容易に照合して特定の個人を識別できるものを個人情報に含めています。写真単体で安全そうに見えても、公開先の文脈とつながることでリスクが高まることがあるのは、そのためです。
だからこそ、写真選びの段階で「どこに置くのか」「何を訴求するために使うのか」まで決めたうえで確認するほうが、後戻りが少なくなります。
加工で残すより差し替えるほうが安全なこともある
公開前の確認で少しでも迷いが残る写真は、モザイクやトリミングで何とか使う前に、その写真を使う必要が本当にあるかを見直したほうが安全です。
差し替えは手間に見えますが、公開後の対応に比べれば負担は小さく済みます。顔を隠しても体形や背景で分かる、ナンバーを隠しても車種や停車場所で分かる、建物の写真なのに背景のポスターが目立ってしまう。このような写真は、加工して残すほど不安が長引きます。
逆に、人物が特定されにくい素材に変える、背景物が少ない構図にする、被写体が写らない写真に差し替える、正式に許諾を取り直すといった対応は、公開後の説明もしやすくなります。
写真素材の権利処理で大切なのは、使えるように加工することではなく、安心して使える写真を選ぶことです。公開前にこの順番で確認できれば、社内の判断もそろいやすくなりますし、制作の現場でも無理のない運用につながります。
まとめ
写真素材は、見た目の印象を整えるための材料であると同時に、使い方を誤るとトラブルの入口にもなりやすい素材です。とくに広告や企業サイトでは、商品やサービスの印象づくりのために写真を使うことが多いため、撮影者の許諾だけで判断を終えないほうが安心です。
人物が写っていれば、容ぼうや印象の扱いを考える必要があります。著名人であれば、知名度やイメージを集客のために利用していないかも見なければなりません。建物の写真では、外観だけでなく、背景に写り込んだポスターや展示物が別の論点になることがあります。車の写真も、ナンバーを隠せば終わりとは言い切れず、車種や停車場所、周辺情報の組み合わせから特定につながることがあります。
実務で大切なのは、公開直前にモザイクで何とかしようとすることではなく、使う前にその写真の論点を整理しておくことです。誰が写っているのか、何が背景に入っているのか、どこでどのように使うのか、その写真が本当に必要なのか。この順番で確認していけば、迷う写真と安心して使える写真の差はかなり見えやすくなります。
写真素材の権利処理は、難しいルールを覚えることよりも、公開前の確認の質を上げることが大切です。少しでも判断に迷う写真があるときは、差し替えや再撮影、許諾の取り直しも含めて、無理のない形で進めたほうが、結果として安全で、長く使いやすいコンテンツになります。
企業サイトや広告で使う写真は、表現だけでなく、掲載前の確認まで含めて考えておきたい素材です。
当社では、広告提案や制作の一環として、写真素材の扱いにも配慮しながら進行しています。広告クリエイティブや販促企画でお困りの際は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。






