2025年12月5日
その他時代を超越するネーミングセンス ―記憶に残る「言葉の仕組み」をデザインする―
人は、最初に音で好き嫌いを決めると言われています。
味や機能、デザインといった理性的な要素に触れるより先に、名前の響きで印象が固まってしまう。それは理屈ではなく、本能の領域で起こる現象です。
たとえば「かっぱえびせん」と聞けば、軽く、楽しく、子ども時代の懐かしさを感じます。「カルピス」と聞けば、白くて涼しい夏の午後が浮かびます。「ポカリスエット」と聞けば、運動後の清涼感を覚えます。言葉が、情景や体感を先に運んでくるのです。
私たち広告代理店は、長年、交通広告やWeb広告といった、一瞬の接触で人の心を捉えるメディアを見てきました。その中で、時代を超えて愛される名前には、必ず共通する法則があることを確信しています。それは、由来に物語があり、音に感情があること。意味と響き、その両輪が深く噛み合ったとき、名前は単なる識別記号ではなく、人の記憶と習慣になるのです。
ここでは、そのネーミングの言葉の仕組みを徹底的に掘り下げ、ネーミングがブランド資産となるメカニズムを、音象徴、記憶のメカニズム、そして広告設計論の三つの軸から詳しく説明します。
目次
名は語る―時代を超える言葉たちの由来と音象徴の探求
時代を超えて愛されるネーミングには、すべて深い由来と、その響きに隠された音象徴が潜んでいます。ここでは、日本のネーミング史に残る成功事例を、その心理的な仕組みとブランドへの影響から詳しく解説いたします。
1. かっぱえびせん:遊び心と軽快さの音設計が生んだ持続力
この「かっぱえびせん」という名前は、1964年にカルビーが発売したスナック菓子の名称です。
当時、漫画家の清水崑が描いた人気キャラクターかっぱ天国とのタイアップ企画があり、子どもたちに馴染み深いかっぱという語感をそのまま商品名に取り入れました。そして、瀬戸内海産のえびを使用したせんべいであることからえびせんが続きました。
由来だけを聞くと説明的に聞こえますが、この「かっぱとえびせん」という音の構成が、ネーミングに驚くほどの軽やかさと親しみやすさをもたらしました。「か」と「ぱ」という破裂音で勢いよく始まり、「えびせん」で素材の安心感が加わる。つまり、遊び心と安心感が一言の中で共存しているのです。
特に、このネーミングは濁音や半濁音が少なく、ほとんどの音が母音で開くため、子どもでも言いやすく、口にしたときのリズムが非常に軽快です。
結果として、50年以上経っても古びないリズムを持つことになりました。「やめられない、とまらない」という、あの有名なコピーは、この軽快な語感があったからこそ、世の中に定着したのです。
ネーミングと広告表現が音で呼応する、稀有な好例です。もし名前が海老せんあられといった機能説明に終始していたなら、このコピーは成立しなかったことでしょう。ネーミングが持つ軽さという音の特性が、そのままやめられないという行動習慣を後押しするメッセージとして機能したのです。
2. カルピス:清潔感と最上の味を多層的に表現した情緒性
大正時代に誕生した日本初の乳酸菌飲料「カルピス」には、西洋的な合理性と東洋的な神秘性が込められています。
創業者の三島海雲がモンゴルで体験した乳を発酵させた飲み物から着想を得て、体に良く、美味しい飲料を作ろうとしたのが始まりです。
名前は、カルシウムのカルと、サンスクリット語で最上の味を意味するサルピスを組み合わせたものです。つまり、「カルピス」はカルシウムと最上の味という意味を持つ造語であり、機能性と理想という多層的な物語が由来にあります。
音の響きも非常に巧みに設計されています。「カル」という音が軽やかに立ち上がり、「ピス」という音が小気味よく弾む。軟口蓋音のカ行と破裂音のパ行という、軽快で明るい子音で構成されているため、言葉全体が優しく、流れるようなリズムを持ちます。
この音には、清潔感と親しみ、そして夏の涼やかさが同居しており、ネーミングが時代を超えて情緒を運ぶという稀有な成功を収めました。
「カルピス」が日本の夏の記憶に深く結びついたのは、単に飲料としての歴史だけでなく、音が季節と感情を呼び出す力を持っているからなのです。この清潔感という音の印象は、白を基調としたパッケージデザインや広告ビジュアルとも完璧に呼応し、ブランドの世界観を確立しました。
3. ポカリスエット:感覚を伝えるハイブリッド音が運動体験を再現
「ポカリスエット」は、1980年に大塚製薬が発売したスポーツドリンクです。開発当初、開発チームがスポーツ後の飲料をどう表現するかという難題に直面しました。まだスポーツドリンクという言葉さえ存在しない時代に、機能を説明するよりも、感覚を伝えることを優先してつくられた造語が「ポカリスエット」です。
ポカリは特定の意味を持たない、無意味語として選ばれました。当時の開発者が軽くて親しみのある音として直感的に選んだと言われています。一方のスエットは英語のsweat、つまり汗です。汗をかくから水分補給という行為を、英語1語で明確に連想させる役割を果たしています。
音の面では、見事なハイブリッド構造となっています。ポカリは日本語的に柔らかく、親しみやすい響きを持ち、スエットは異文化の香りを持つことで、商品に新しさを生み出しました。
リズムは、ポ・カ・リ・ス・エッ・トという6音節の中に、丸みとキレが交互に現れる構成です。その構成が、運動から爽快、そして回復という、商品使用の体感を音で再現しているのです。
発売当初は汗の飲み物かと不思議がられましたが、音の新鮮さと機能の整合性が数年で定着し、今ではポカリだけで意味が通じるという、言葉がブランドになった瞬間を象徴する成功事例です。
4. のどぬ〜る:体感を言葉にしたやさしさのデザインと安心感
小林製薬が1988年に発売した「のどぬ〜る」は、体感を言葉にしたネーミングの好例です。
のどに塗るという機能をそのまま言葉にしたように見えますが、長音のぬ〜るという音の設計が、印象をまったく変えています。長音の〜が親しみやすさと浸透する時間を生み出しています。医薬品らしい冷たさがなく、家族的な温もりを感じさせ、手当てのイメージを連想させます。
さらに、漢字やカタカナではなく、ひらがな表記にしたことで、視覚的にも柔らかい効き目を演出し、安心感をもたらしています。
ぬ〜るという音は、塗布する行為をそのまま擬音化したような音象徴の効果を持っています。言葉の形と音の長さが、ブランドの持つべき人格と信頼性を作り上げた好例です。これは、ネーミングが機能よりも体感の質を伝えることに成功した事例です。
このネーミングがもたらす親しみやすさという印象は、特に医薬品という不安を伴うジャンルにおいて、ユーザーの心理的なハードルを劇的に下げているのです。
5. バファリン:刺激の緩衝を音で表現した安堵感と広告への連動
医薬品の世界で、「バファリン」は特に音による安堵感を演出した名前です。
その語源は、Buffer、つまり緩衝するものという意味の英語と、Aspirinという解熱鎮痛剤の名前を組み合わせたものです。Buffered Aspirinを短縮してBufferinとしたもので、名前そのものが、胃への刺激を和らげるという機能を表しています。
それでいて、音の響きが非常に美しく、心理的な安堵をもたらします。バは日本語で最も優しい破裂音であり、ファは空気を吐き出すような柔らかさを持ち、リンで締めると清潔で軽い印象を与えます。名前の最初から最後まで、言葉の物理的な響きがやさしさを再現しているのです。
そして、あの有名なCMコピー「やさしさでできている」は、このネーミングの音感が伝える印象を、そのまま言語化したものに他なりません。
名前の意味と音感が深く一致すると、広告コピーやブランドメッセージが自然に、そして強力に生まれます。ここに、ネーミングがブランドの核となる本質があります。
このネーミングの一貫した優しさが、痛み止めというネガティブな体験に、ポジティブな安心感という付加価値を与えることに成功しているのです。
ネーミングの構造論―記憶の仕組みと音象徴の深層

時代を超えるネーミングの成功は、偶然ではありません。それは、人の記憶の仕組みと音象徴という、二つの要因に基づいています。ここでは、その構造をさらに深く掘り下げます。
1. 記憶に残るネーミングの反復性と軽さのメカニズム
人が名前を記憶し、習慣的に使い続けるためには、その言葉に反復性と軽さが必要です。
反復性とは、言葉を発したときのリズムの良さです。「かっぱえびせん」や「ペイペイ」のように、音節が短く、軽快なリズムを持っている言葉は、人はつい口に出したくなります。この口にしたくなるという特性が、ネーミングの浸透を加速させるのです。
軽さとは、言葉の意味や発音の難易度が低いことです。短く、口に出しても打ち込みやすいメルカリは、スマホ時代のコミュニケーションツールと同じテンポを持っています。
ネーミングは、発音のしやすさ、打ち込みやすさといった、ユーザーの行動コストを徹底的に考慮して設計されるべきなのです。
2. 音象徴が感情を呼び出す深層メカニズム
音象徴とは、言葉の音そのものが、特定の形や質感、感情を連想させるという現象です。ネーミングの成功例の多くは、この音象徴を巧みに利用しています。
日本語の音節構造を細かく見ると、母音や子音によって、言葉の印象は明確に分かれます。例えば、アの音は大きく、明るく、開放的な印象を与え、製品の規模感やブランドの楽観性を表現できます。一方、イの音は小さく、鋭く、知的な印象を与え、精密な技術や先進性を表現するのに適しています。
子音では、カ行、タ行、パ行は破裂音や閉鎖音と呼ばれ、その歯切れのよい響きが、勢いや楽しさ、軽快さという印象を与えます。同時に刺激や攻撃性も伴うため、食品やカジュアルなサービスに向いています。
一方、摩擦音であるサ行、ハ行は、滑らかさ、優しさ、または静けさを与え、医療品や美容製品といったデリケートなジャンルに適しています。「バファリン」のバ、ファ、リンは、これらの音が持つ優しさの要素を意図的に組み合わせて、痛みを和らげる安堵感という感情を音で再現しています。
ネーミングデザイナーは、この音象徴のパレットを使って、言葉に体温と人格を宿しているのです。
3. ネーミングに仕込まれた日本語の終止音の戦略と感情的余韻
日本語のネーミングにおいて、言葉の末尾の音は、記憶と感情に強い影響を与えます。これは、日本人の耳が、言葉のアクセントと終止音に極めて敏感であるためです。
例えば、「ん」という終止音は、日本語で最も多く使われる終止音でありながら、完結と余韻という、相反する感覚を同時に残す特性を持っています。「じゃらん」のように、言葉の末尾に「ん」を置くことで、旅が終わっても、次の旅への期待が残るといった、複雑な情緒を表現できます。
また、「ル」や「リ」といった流音で終わる言葉は、軽快さや継続性を連想させます。「メルカリ」の「リ」や、「カルピス」の「ス」という音は、つながりや軽快な交換といった、サービスの本質を音でサポートしています。
ネーミングの末尾は、その言葉が人々の習慣として定着するかを決定づける、極めて重要な要素なのです。ネーミングの終止音を戦略的に設計することは、ブランドが人々の心に残す感情的余韻をコントロールすることに他なりません。
ネーミングの類型論―機能と感情のバランス設計
ネーミングは、大きく分けていくつかの類型に分類できます。どの類型を選ぶかは、ブランドが持つべき人格と、市場での競争戦略によって決定されます。ここでは、主要な三つのネーミング類型とその戦略的特徴を深く論じます。
1. 類型I:機能型ネーミングが持つ安心感と拡張性の限界
機能型ネーミングは、その製品の主な機能や成分をそのまま言葉にしたものです。「のどぬ〜る」や「ポット洗浄中」のように、製品の用途がすぐにわかるという、認知コストの低さが最大の利点です。
このタイプのネーミングが成功するためには、機能と情緒という組み合わせが必要です。
「のどぬ〜る」が単なるのどに塗るではなく、長音の〜でやさしさという情緒を加えたように、機能型は硬さを打ち消すための感情的な修飾が不可欠です。
しかし、機能型ネーミングには拡張性の限界という大きな弱点があります。
もし「のどぬ〜る」が「耳ぬ〜る」や「胃ぬ〜る」といった、喉以外の製品を展開しようとした場合、ネーミングの整合性が失われ、ブランドが混乱します。ブランドの将来的な多角化を視野に入れる場合、機能型ネーミングは慎重に選ぶべきです。
2. 類型II:造語型ネーミングが持つ新しさと物語の創出
造語型ネーミングは、既存の言葉を組み合わせたり、無意味な音を創作したりすることで、市場に新しい概念を提示するネーミングです。「ポカリスエット」や「ぐるなび」などがこれにあたります。
造語型ネーミングの強みは、その新規性から、競合他社との明確な差別化が図れることです。また、特定の意味を持たないため、ブランドの世界観を自由に拡張できるという柔軟性があります。ブランド側が、広告を通じてその言葉に物語と感情を自由に付与できるのです。
しかし、造語型ネーミングは、認知コストが極めて高いというリスクを伴います。
初めは汗の飲み物かと戸惑われた「ポカリスエット」のように、ブランド側が多大な広告投資と時間をかけて、その言葉に意味を吹き込む必要があります。中小企業が造語型ネーミングを選ぶ際は、その後のブランド育成にかかる費用と時間を十分に考慮することが重要になります。
3. 類型III:転用型ネーミングが持つ親近感と文脈の継承
転用型ネーミングは、既存の言葉を、本来の文脈とは異なる形で使用するものです。「じゃらん」や「メルカリ」などがこれにあたります。
転用型ネーミングの強みは、既に存在する言葉の持つ親近感や文脈を継承できることです。
じゃらん(jalan)は、インドネシア語で「道」や「プロセス」を意味しますが、「jalan-jalan」と重ねることで「散歩する」「ぶらぶら出かける」「旅行する」といった意味になり、軽快さや勢いを感じます。メルカリがラテン語のmercari、つまり商うという歴史的な文脈を継承しているように、古くて新しいという両義的な魅力をブランドに付与できるのです。
転用型ネーミングの成功の鍵は、既存の言葉の持つイメージを、新しいブランドの文脈でいかにポジティブに再定義できるかにかかっています。ネガティブなイメージが強い言葉を選んでしまうと、そのイメージを払拭するために膨大な広告費用が必要になります。
言葉が持つ二面性を理解し、そのポジティブな側面だけを抽出する、高度な言語感覚が求められる類型です。
ネーミングと記憶のメカニズム―認知科学から見る定着の法則

ネーミングが時代を超えて残るためには、人々の記憶に強固な形で定着する必要があります。これは、単なる反復による記憶ではなく、脳内の特定のメカニズムに働きかけることで実現されます。ここでは、認知科学の視点から、ネーミングの定着の法則を分析します。
1. エピソード記憶と意味記憶の二重のフック
人の記憶には、大きく分けてエピソード記憶と意味記憶の二種類があります。
エピソード記憶とは、いつ、どこで、何をしたかといった体験に伴う記憶です。
ネーミングがこの記憶に定着するためには、広告を通じて強い感情的な体験と結びつく必要があります。かっぱえびせんが子ども時代の楽しいおやつというエピソード記憶と結びついていること、カルピスが夏の涼しさという季節のエピソード記憶と結びついていることが、その持続力の源泉です。
意味記憶とは、知識や概念といった事実に関する記憶です。
ネーミングがこの記憶に定着するためには、ポカリスエットはスポーツドリンク、バファリンはやさしい痛み止めといった、機能やブランドの本質を簡潔に伝えられる必要があります。
時代を超えるネーミングは、このエピソード記憶と意味記憶の二重のフックを同時に持つように設計されています。広告は、このネーミングに、感情的な体験というフックを付与する役割を担っています。
2. 記憶の強化装置としてのプライミング効果
ネーミングの定着を助ける重要なメカニズムにプライミング効果があります。これは、事前に提示された情報が、後の情報処理に無意識のうちに影響を与える現象です。
電車広告やバス広告といった一瞬の接触でネーミングを見たとき、それが後にテレビCMやWeb広告で再度提示されると、利用者は見たことがあるという無意識の安心感を覚えます。この安心感が、認知的な負荷を減らし、ブランドへの信頼を高めるのです。
ネーミングに仕込まれた音の優しさや軽快さは、このプライミング効果を強め、無意識下でポジティブな印象を植え付ける役割を果たします。
ネーミングの成功は、単に覚えやすいことではなく、無意識下でポジティブな反応を引き出すことにあるのです。
3. 記憶の劣化を防ぐネーミングの固定資産化戦略
人の記憶は時間と共に劣化しますが、ネーミングを固定資産として保持させる戦略が必要です。その鍵は、ネーミングが社会的な役割を担うことです。
カルピスが夏の代名詞という役割、ポカリスエットが水分補給の代名詞という役割を担うことで、そのネーミングはもはや特定の企業の商品名という枠を超え、社会共通の言語となります。社会共通の言語となった名前は、人々の会話や日常の習慣の中で常に反復されるため、記憶の劣化から守られます。
広告は、ネーミングにこの社会的な役割を与えるための強力な手段です。キャンペーンやキャッチコピーを通じて、ネーミングと特定の行動や感情を強く結びつけることで、ネーミングを記憶の固定資産化へと導くのです。
ネーミングを育てる広告設計論―媒体特性と音の活かし方
ネーミングが広告の核であるならば、そのネーミングの響きを、各媒体の特性に合わせて最大限に活かす広告設計論が不可欠になります。
1. 交通広告における音の静かな浸透戦略
電車広告や空港広告といった交通媒体は、音のない空間で、ネーミングの響きを視覚情報として伝える必要があります。
空港広告では、静かで洗練された空間の中で、ネーミングの持つ上質な響きや安心感のある音を、美しいフォントと静かな余白によって視覚的に強調します。ここでバファリンのような優しく丸みのある音を持つ名前は、視覚デザインも丸みを帯びたものにすることで、音と視覚の完璧な調和を生み出し、利用者の無意識に信頼感を深く浸透させます。
電車広告では、反復接触が多いという特性を活かし、ネーミングの持つリズムをコピーで表現します。かっぱえびせんのやめられない、とまらないのように、リズム感のあるコピーがネーミングの軽快な音と連動することで、短時間で強い記憶を定着させます。
交通広告は、ネーミングの視覚的な音を鍛える最高の訓練場です。
2. デジタル広告・SNSにおけるタップされるリズムの設計
デジタル時代におけるネーミングは、タップされるリズムを持つことが重要です。
ネーミングの短さ、打ち込みやすさは、検索、ハッシュタグ、SNSでの会話といったデジタルの行動コストに直結します。
メルカリやペイペイのように、短く、日本語のローマ字入力でスムーズに変換できる音を選ぶことは、ユーザーの摩擦を減らすという点で、極めて機能的な戦略です。また、SNSでは#と組み合わされることが多いため、ネーミング自体に遊び心や親しみやすさといった拡散しやすい感情的要素を音に仕込む必要があります。
広告キャンペーンでは、ネーミングの持つ音のリズムを、動画や音楽と連動させることで、視聴者の脳内に繰り返し再生されるように設計します。
デジタル広告は、ネーミングの持つリズムを、行動であるタップ、検索、発言へと変換するための最終的な装置なのです。
3. 名前が持つ物語を拡張する広告表現
ネーミングが持つ物語を広告でいかに拡張できるかが、ブランドの寿命を決めます。
カルピスのネーミングにあるサンスクリット語の最上の味という物語を、広告は夏の家族の団欒というエピソードに変換しました。かっぱえびせんのかっぱという遊び心を、CMソングの軽快なリズムとコミカルな映像で拡張しました。
広告は、ネーミングの意味の核を取り出し、それに社会的な文脈、感情的な色付け、そして具体的な利用シーンという肉付けをする作業です。この肉付けが分厚く、人々の共感を呼ぶほど、ネーミングは強固なブランド資産へと成長していきます。
ネーミングの成功は、その名前から、広告がどこまで遠くへ飛べるかという拡張性にかかっているのです。
ネーミングを巡る誤解と失敗からの教訓―広告の責任
ネーミングを考える上で、陥りやすい誤解や、失敗から学ぶべき教訓があります。ネーミングの失敗は、その後の広告プロモーションにかかるコストを大幅に増やしてしまうことになります。
1. 陥りやすい誤解:造語はかっこいいという安易な発想の危険性
造語型ネーミングは、確かに新しく、かっこよく聞こえますが、安易な造語は大きなリスクを伴います。特定の意味を持たない造語は、広告を通じて意味をゼロから吹き込むという、非常に高価で時間のかかる作業をブランドに課します。
ブランドに十分な広告予算と時間がない場合、造語はただの覚えにくい文字列として人々の記憶から消えてしまいます。中小企業や個人事業主の場合、ネーミングはできる限り機能と情緒といった、認知コストの低い機能型や転用型を選ぶ方が賢明です。
造語を選ぶ際は、その言葉が持つ音の優位性であるリズムや感情を、論理的な根拠を持って説明できることが必須条件となります。
2. 失敗例に学ぶ音の不一致がもたらす致命的な結果
ネーミングの失敗例の多くは、意味と音が不一致を起こしているケースです。
例えば、高級なジュエリーブランドに、破裂音や濁音が多い名前を選んでしまうと、ブランドが訴求したい繊細さや上質さといった感情と、音が持つ粗さや勢いが衝突し、ブランドメッセージ全体に違和感が生じます。消費者は無意識のうちにこの違和感を感じ取り、ブランドへの信頼を置けなくなるのです。
ネーミングは、言葉の響きが、ブランドが最終的に届けたい体感の質を正確に表現していなければなりません。意味は理性で理解できますが、音は本能に直接訴えかけるため、この不一致は致命的な結果をもたらします。
3. 広告代理店としての責任:名前に逃げ場を作らない
ネーミングの責任は、最終的にその名前を広める広告代理店にもあります。
私たちがネーミングを設計する際の責任は、この名前が、広告という現場で本当に機能するかどうかを徹底的に検証することです。
もしネーミングが弱ければ、広告表現に過度な負荷がかかり、広告が説明的になりすぎてしまう。良いネーミングとは、コピーやビジュアルが最小限の説明で済むように、既に多くの情報を内包している言葉です。私たちは、ネーミングが広告の逃げ場とならないよう、その言葉が持つ物語と音の力を最大限に引き出す責任があると考えています。
私たちは言葉を物語として設計し、未来へ広げます。
私たちは、名前をデザインではなく物語として考えます。その言葉がどこで生まれ、どんな響きを持ち、これからどんな人に呼ばれていくのか。そこまでを想像して設計することが、私たちの仕事です。
そして、いい名前が生まれたら、今度はそれを広める仕事が始まります。交通広告、街の中、デジタルの中。あらゆる場所で、その言葉が自然に届くように、私たちは戦略を練ります。
広告とは、単に商品を宣伝することではなく、言葉を人々の心に届き、時代を超えて残る物語へと昇華させるプロセスです。
もしあなたが、いい名前ができた、でも、どうやって広めよう、新しい商品名に、もっと長く愛される物語を込めたい、ネーミングの音を活かした、交通広告の企画を考えてほしい、そう思ったときは、どうぞ私たちを思い出してください。
言葉が、人の心に届き、時代を超えて残るように。そのお手伝いをするのが、私たちの仕事です。
お問い合わせはこちらから。あなたのブランドに、時代を超える名前と物語を。私たちと一緒に、その第一歩を始めましょう。





