2026年4月10日
WEB広告の色づかいを見直す 誤認や見落としを防ぐデザイン設計
広告をつくるとき、色の選び方に迷うことがあります。
ターゲットに合わせてパステルカラーを使ったら、なんとなく見づらい印象になってしまった。インパクトを出そうと補色の組み合わせにしたら、画面がきつくなりすぎた。ブランドカラーを守ろうとすると、コントラストが足りなくて文字が読みにくくなる。こうしたジレンマは、広告制作の現場でよく起きています。
これらの悩みには、共通の背景があります。広告を見る人の色の見え方が、一様ではないということです。
遺伝子の変異や目の疾患によって色の知覚が異なる人が、日本には500万人以上存在するとされています(J-STAGE掲載論文「カラーユニバーサルデザイン」情報管理55巻5号、2012年)。先天的な色覚の違いだけでなく、白内障や網膜疾患による後天的な変化も含まれます。広告を見る人の約4パーセントが、一般とは異なる色の受け取り方をしているということです。
この前提に立つと、配色のジレンマの多くは「美しく見えるかどうか」ではなく「誰に届いているか」という問いに置き換わります。色づかいの設計を見直すことは、特定の人への対応ではなく、広告の伝達精度を上げることです。
色を鮮やかに使いながら情報を正確に届けることは、設計の視点さえ持てば両立できます。
また、色づかいの問題は特定の媒体に限りません。Web広告でも店頭ポスターでも電車の車内広告でも、色だけに意味を持たせた設計は同じリスクを持ちます。
デジタルとリアルにまたがって広告を展開している場合でも、配色の設計方針は共通の考え方で整理できます。
ここでは、広告配色でよく起きるジレンマと、カラーユニバーサルデザインの考え方を使った解決策について説明します。
広告配色のジレンマ
配色の悩みは、きれいに見えることと正確に伝わることが、かみ合わないところから生まれます。デザインとして完成度が高く見える広告でも、受け手によっては情報が届いていないことがあります。パステルカラー、補色、ブランドカラーという三つの場面でよく起きる問題を整理します。
パステルカラーは意図せず情報を消す
Z世代向けのブランドや、さわやかさを打ち出したい広告では、パステルカラーが選ばれやすくなります。
淡い水色、薄いピンク、やわらかい黄緑——こうした色は清潔感や親しみやすさを広告に加えます。春夏キャンペーンや化粧品広告では、パステルカラーを主役にしたデザインが多く見られます。若い女性をターゲットにした商品広告でも、ブランドの世界観を表現するためにパステル系の配色が使われることは珍しくありません。
ところが、パステルカラーは彩度が低く明度が高いため、色同士の差が感じ取りにくくなります。水色とピンク、グレーと淡い水色や緑は、色弱の人にとって混同しやすい組み合わせの代表例です。さわやかに見える配色が、情報の区別を消してしまうことがあります。
屋外のサイネージや店頭ポスターのように、明るい環境で短時間に見られる媒体では、パステルカラー同士の差はさらに縮まります。一般色覚の人が「整った配色だ」と感じる画面でも、受け手によっては情報の区別がつかない状態になっていることがあります。
補色は強調しすぎると識別を妨げる

赤と緑、青と橙など、色相環で向かい合う補色を使うとインパクトが出ます。
セールや期間限定のプロモーションで目を引きたいときに選ばれやすい配色です。視覚的な緊張感を出すために補色を使うことは、広告の基本的な手法の一つでもあります。クリスマスの赤と緑、夏のキャンペーンの青とオレンジなど、季節感や雰囲気を出すために補色が選ばれる場面は多くあります。
しかし、補色を大きな面積で並べると、一般色覚の人にとっても目が疲れやすく、画面がきつくなります。
さらに、赤と緑の組み合わせは色弱の人にとって特に識別が難しい配色です。赤が暗く見えるタイプの色弱では、赤と黒も混同しやすくなります。インパクトを狙って選んだ配色が、重要な情報をつかみにくくしているケースは少なくありません。
「目を引く」ことと「情報を届ける」ことは、補色の使い方によっては相反します。
赤で強調しても届かないことがある
広告では、重要な情報を赤字にすることがよくあります。特価の価格、申込の締め切り、注意書き、期間限定の条件——こうした情報を赤にすることで目立たせようとします。一般色覚の人にとって、赤は他の色とは大きく異なる特別な色で、最初に目に飛び込んでくるものです。
しかし、色弱の人にとって赤は特別に目立つ色ではありません。
赤が暗く見えるタイプでは、黒に近い色として見えることがあります。「赤字の価格」「赤いCTAボタン」「赤でマークしたポイント」は、届けたい相手に十分な強調として伝わっていないかもしれません。
注意書きや重要事項を赤字だけで目立たせている場合、受け手によってはその情報が読み飛ばされやすい状態になっています。
申込条件の細則、使用上の注意、返金不可の表記——こうした情報は、広告主にとっては必ず伝えなければならない内容です。赤字にしたから伝わった、とはならない場合があります。
重要な情報ほど、色だけを手がかりにせず、文字の表現や配置、囲みなどを組み合わせた設計が必要です。
ブランドカラーが制約になる
長年使ってきたブランドカラーは変えられないという制約があります。赤系のブランドカラーを背景に使えば白文字は読みやすくても、暗い文字では埋もれます。明るい色を基調にするブランドでは、白背景との差がなくなって視認性が落ちます。
W3CのWCAGが示すコントラスト比4.5対1という基準に合わせようとすると、使い慣れたブランドカラーをそのまま使えない場面が出てきます。
ブランドの担当者にとっては「ブランドカラーを守ること」と「読みやすさを確保すること」が相反するように感じられることもあります。長年の積み重ねで定着したブランドカラーを変えることは、現実的には難しく、制作現場の判断を複雑にします。
しかし、このジレンマは「どちらかを選ぶ問題」ではなく、「どう使うかの設計の問題」です。色そのものを変えなくても、使い方を変えることで状況は変わります。
カラーユニバーサルデザインという考え方
カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは、色の見え方が異なる人を含めて、できるだけ多くの人に情報が正確に届くよう、色の使い方を設計する考え方です。色を使わないことではなく、色だけに頼らないことが核心にあります。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)は当事者の視点でデザインをチェックし、見分けやすい設計に認証マークを発行するなど、CUDの普及に取り組んでいます。こうした取り組みが広がってきた背景には、色だけに頼ったデザインが情報のバリアになっているという認識が社会的に高まってきたことがあります。
全員に届く設計が広告の精度を上げる

CUDは特定の人への配慮ではなく、広告の設計精度を上げるための考え方です。色だけに意味を持たせた設計は、受け手によって情報のこぼれが起きます。色以外の手がかりも同時に使うことで、誰にとっても伝わりやすくなります。
色数を絞り、明暗で構造をつくり、色以外の手がかりを加える——こうした設計は、一般色覚の人にとっても広告を読みやすくします。やみくもに色を増やしたデザインは、色弱の人だけでなく一般色覚の人にとってもわかりにくくなります。色が多いほど整理されて見えるわけではなく、色を絞って明暗差で構造をつくった広告のほうが、情報の優先度が伝わりやすくなります。
経済産業省の指針でも、アクセシブルなコンテンツをつくるうえで「色の情報だけに依存しないこと」が示されていますが、これは特別な対応ではなく情報設計の基本です。CUDの考え方は、広告の完成度を上げる方向と一致しています。
色に意味を持たせるなら形でも支える
価格に色をつけるなら「特別価格」という文字も添える。グラフの凡例は色だけでなくラベルを図の中に直接書き込む。CTAボタンは色だけでなく位置と形でも目立たせる。注意事項はアイコンや囲みで色以外の手がかりを加える。補色で区切った境界には白や黒のフチ取りを入れる。
こうした一つひとつの工夫が、CUDの実践です。
色と形の両方で意味を支えておくと、別のメリットも生まれます。
たとえばグラフのデータ系列に色と形の両方で違いをつけると、白黒印刷でも情報が伝わります。CTAボタンを色だけでなく余白と位置でも目立たせると、画面が小さいスマートフォンでも操作しやすくなります。色弱への対応が、デザイン全体の完成度を上げることにつながります。
こうした対応はデザインの手間を大きく増やしません。一度習慣にすれば制作フローの確認項目として定着させることができます。
明暗差で骨格をつくる
見た目にきれいな配色でも、背景と文字の明暗差が小さければ内容は読み取りにくくなります。薄い色の背景に白文字を重ねたり、写真の上に細い文字を置いたりすると、強調したいはずの情報ほど読まれにくくなります。色相の差だけで情報を見せようとすると、受け手の見え方によって情報の重みが変わってしまいます。
デザインをグレースケールに変換して見たとき、情報の階層が保たれているかどうかが一つの目安になります。
見出しと本文の差がわかる、重要な情報と補足が区別できる、ボタンが周囲から浮いて見える——この状態が確認できれば、色を加えたときにも情報の構造は崩れません。W3CのWCAGが示す4.5対1というコントラスト比は、テキストの読みやすさを担保するための数値的な目安です。色づかいの前に、まず明暗差で情報の骨格を組んでおくことが、広告の設計を安定させます。
グレースケールで見て構造が見えない広告は、色をつけても構造は補われません。逆に、グレースケールで情報の優先度がはっきりしている広告は、色を加えることで印象がさらに強まります。
ジレンマの解き方
パステルカラーが使いたい、補色でインパクトを出したい、ブランドカラーを守りたい——これらの要求はすべて正当です。CUDに対応するためにすべてを変える必要はありません。工夫の方向を知っておくだけで、大半のジレンマは解決できます。色そのものを変えるのではなく、色の使い方と組み合わせを変えることが解決の糸口です。
第1章で整理した三つのジレンマを、それぞれ具体的に解いていきます。
パステルカラーは色相の微調整と明暗差で整える

パステルカラー同士を並べるときは、色の差ではなく明暗差で情報を分けることを意識します。一方の明度を下げる、枠線や記号で区別を補う——こうした調整で、色の見え方に関わらず情報が届きやすくなります。
また、ピンクは黄色に寄せると水色と混同されにくくなり、グレーは青みを加えるとピンクや緑と区別しやすくなります。パステル系でも、色相のわずかな調整で見分けやすさを改善できます。「同じ色名の中で整える」微調整なので、ブランドの世界観を大きく崩すことなく対応できます。
背景色と文字色の組み合わせにグレースケールで差がつく状態を先に確保しておけば、パステルカラーの柔らかさを残しながら情報は届きます。パステルカラーが多用されるWebバナーやSNS広告では、スマートフォンの画面輝度や閲覧環境によっても色の見え方が変わります。
明暗差を確保しておくことが、環境の違いに対しても広告の伝達精度を安定させます。
補色はフチ取りと面積で扱いやすくなる
補色を使うこと自体は問題ではありません。問題になるのは、補色が接する境界がわかりにくくなることと、明暗差のない補色を大きな面積で並べることです。
黒や白のフチ取りを入れるだけで境界は鮮明になります。一方の面積を小さくする、一方を明るく一方を暗くするといった調整で、印象のきつさと識別のしにくさを同時に解消できます。
インパクトの出し方を色の鮮やかさだけに頼らず、余白や文字の大きさ、配置でも担えるように設計すると、補色の扱いが楽になります。
補色を「アクセント」として小面積に使い、主な情報は明暗差で整えておくという役割分担が、現場では使いやすい考え方です。補色が大きな面積を占めるほど画面は疲れやすくなるため、どこに補色を使うかの取捨選択が、広告のページイメージ全体を左右します。
ブランドカラーは色調の微調整で対応できる
ブランドカラーを変えなければいけないのかという懸念がありますが、その必要はありません。色そのものではなく、色調のわずかな調整で対応できることがほとんどです。
赤系のブランドカラーであれば、オレンジ寄りにわずかにずらすと識別されやすくなります。緑系は青みを少し強めると赤や茶色と混同されにくくなります。ピンクは黄色寄りにすると水色と区別しやすくなり、グレーは青みを加えるとピンクや緑と混同されにくくなります。
「赤がオレンジっぽくなった」「緑が青みがかった」と感じるほどの変化ではなく、ブランドの印象を保ったまま調整できる範囲です。
補助色を足す、余白を広げる、文字の太さや大きさを変えるといった工夫と組み合わせれば、ブランドカラーの印象を保ちながら伝達精度を上げることは十分に可能です。ブランドらしさと読みやすさは対立するものではなく、設計しだいで両立できます。
制作現場での確認の仕方
CUDの考え方を知っていても、現場でどこから手をつければよいかがわからないと前に進みにくくなります。確認の仕組みは、企画・制作・公開前の三つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。
配色の問題は仕上げ段階での微調整で対応できることもありますが、企画の時点で色に役割を持たせすぎていると、後からの修正では追いつかないこともあります。デザインとして完成した後に「色だけで意味を伝えていた」と気づいても、構成から変えなければ対応できない場合があります。最初から色以外の手がかりを組み込む前提で設計しておくことが、効率的です。
企画段階で色の役割を整理する

その広告の中で色が何を担っているかを先に整理しておくことが大切です。
どの情報を目立たせたいのか、どこを区別したいのか、何を注意喚起したいのかをはっきりさせると、色だけに役割を背負わせている箇所が見えやすくなります。
申込ボタンなら色だけでなく配置・余白・文言でも差をつける。価格訴求なら赤字だけでなく見出しや補足文で意味を支える。グラフや比較表現なら色分けとあわせてラベルを図の中に書き込む。注意事項なら色だけでなくアイコンや囲みで手がかりを加える。こうした設計方針を企画段階で決めておくことが、後工程での手戻りを減らします。
色は印象を整える手段として使いながら、意味の伝達は別の要素でも担保しておく——その意識を持つだけで、広告の設計は変わります。企画書やデザインブリーフの段階で「この情報は色以外で何で伝えるか」を一行加えるだけで、制作に入ってからの迷いが減ります。
制作段階ではツールで確認する
AdobeのPhotoshopやIllustratorには「ビュー→校正設定」のメニューに標準で色弱用のシミュレーション機能が搭載されています。iPhoneやiPadのアプリ「色のシミュレータ」を使えば、現場でリアルタイムに確認することもできます。デザインツールを普段使っていれば、追加のコストなく確認できる環境はすでに整っています。
制作途中の段階でこまめに確認する習慣をつけると、完成間際の大きな修正を防ぐことができます。
チェックの際に見たいのは、文字が背景に埋もれていないか、色の違いがなくても意味がわかるか、離れて見ても強調部分が拾えるか、凡例が色なしでも読めるか、という点です。
ただし、シミュレーションはあくまで補助です。色合いによっては正確に再現されないこともあるため、ツールの結果だけで判断を完結させず、グレースケールでの確認と組み合わせることが実用的です。
公開前に初見の視点を入れる
自分でつくった広告は、内容も意図もわかっているぶん、どこが見えにくいのかに気づきにくくなります。公開前に制作に関わっていない人に見てもらい、意味が伝わるかを確かめることが有効です。
グレースケールで見てもらう、少し離れた距離から確認してもらう、初見でCTAの位置がわかるかを確かめる——こうした方法でも、色に頼りすぎた箇所が浮かび上がってきます。
デジタル庁の導入ガイドブックでも、アクセシビリティは公開直前だけでなく企画から運用まで通して取り組むことが重要だと示されており、確認を習慣として制作フローに組み込む形が現実的です。
「見てもらう人を探すのが難しい」という場合でも、制作担当者以外のチームメンバーに30秒見てもらうだけでも、色だけに頼った箇所は見えてきます。確認の精度よりも、確認する習慣をつくることのほうが、長期的には広告の品質を上げます。
まとめ
広告の色づかいに迷うのは、きれいに見えることと正確に届けることの間でバランスを取ろうとしているからです。
パステルカラーのさわやかさを守りたい、補色のインパクトを出したい、ブランドカラーを変えたくない——どれも正当な要求です。そのジレンマを「どちらかを選ぶ問題」として抱えている限り、答えは見つかりにくくなります。色の設計を「誰に届けるか」という問いから組み立てることで、ジレンマは解けるようになります。
ただ、色だけに意味を持たせた設計では、日本にいる500万人以上の色の見え方が異なる人に情報がこぼれます。これは確率の問題ではなく、広告が届く相手の中に必ずいるという現実です。
1万インプレッションの広告には250人以上の色弱の人が接触しています。駅や電車の中で毎日何万人もの目に触れる交通広告では、その数はさらに大きくなります。カラーユニバーサルデザインの考え方は、その現実に対して広告の設計精度で応えるための方法です。
やることは難しくありません。グレースケールで骨格をつくる、色に意味を持たせるなら形でも支える、ブランドカラーは同じ色名の範囲内で整える——こうした積み重ねで、広告は多くの人に届くものになります。
色の扱いを見直すことは、特別なだれかのための対応ではなく、広告そのものの完成度を上げることです。パステルカラーのさわやかさも、補色のインパクトも、ブランドカラーの一貫性も、設計の工夫によって情報の伝わりやすさと両立させることができます。
まず手元にある広告素材をグレースケールで見てみてください。
色を外したときに情報の構造が残っていれば、その広告は多くの人に届く設計になっています。グレースケールで情報の骨格が見えたら、次に色をつけ、最後に色以外の手がかりが足りているかを確認する。この順序で設計するだけで、配色の判断は変わります。
価格訴求、注意書き、CTAボタン、グラフの凡例——日常の広告制作の中にある一つひとつを見直すことが、広告の伝達精度を確実に上げていきます。
店頭販促物、サイネージ、Web広告、LP、交通広告など、色づかいの設計から見直したいときは、お問い合わせフォームからぜひご相談ください。






