2025年12月12日
交通・屋外広告動く看板、ラッピングバス ―地域密着型広告の可能性―
街中を走るバスの中には、企業のブランドカラーや大きなキャッチコピーで装飾された車両があります。いわゆるラッピングバスです。
街の景色の中でひときわ目を引く存在ですが、実際には華やかさの裏側に、多くのルール、技術、審査、素材選定などの専門知識が関わっています。ラッピング広告を検討されたことがあっても、手順や注意点までは意外と知られていないという声も多く聞かれます。
ここでは、ラッピングバス広告の仕組みや特徴、デザインや素材、審査や施工の実務、そして費用の考え方まで、広告代理店としての実務経験に基づきながら分かりやすく解説します。これから実施を検討する企業の方や、地域での認知向上を考えている担当者の方にとって、判断の参考になる内容をまとめています。
目次
ラッピングバスという広告媒体の特性

ラッピングバスは、地域の生活動線を走る公共交通機関そのものを広告として活用する媒体です。
走行エリアは日々大きくは変わらないため、利用者や地域住民が無意識のうちに目に触れる機会が多く、自然な反復接触が生まれます。この特性は、地域密着型の広告手法として高く評価されています。
複数のバス事業者の運行規程によると、路線を指定できる会社と営業所単位でしか指定できない会社があり、営業所指定の場合には複数路線を横断して運行されることがあります。広告の効果を最大化するには、走行エリアが広告主の商圏と一致しているかの確認が欠かせません。
ラッピングバスにはフルラッピング、側面ラッピング、後部ラッピング、その組み合わせなどの種類があり、選択できる形式はバス会社ごとに異なります。
フルラッピングは街の景観に影響を与えるほどの存在感があり、バス広告の中でも最も高い視認性が期待できます。部分ラッピングは比較的費用を抑えながら導入できるものの、表現範囲が限られるため目的に合わせた選択が必要です。
一般的なメリットとして、地域住民の視界に自然に触れ続けることで認知が定着しやすい点が挙げられます。
日常生活の動線に入り込むため、地域での営業や来店を伴うビジネスとは特に相性が良いとされています。反対に、ターゲットを細かく絞って広告を配信したい場合や、短期的な成果を求める場合には向きません。ラッピングバス広告は、ブランドやメッセージを地域に根付かせていく中長期施策として活用するのが適しています。
デザインと審査に関わる実務
ラッピングバスのデザインには、平面広告とは異なる専門性が求められます。
バスには扉や給油口、点検扉、送風口、立体的なモールなど、デザインが分断されやすい箇所が多く存在します。人物写真やロゴなどを扱う際には、配置場所によって本来の見え方が損なわれるおそれがあります。
自治体の広告物取扱基準によって景観の保全を目的とした表現規制が設けられている場合があり、色味の使用制限やコントラスト調整を求められることがあります。企業のブランドカラーをそのまま使用できないケースもあり、調整が必要になることがあります。
さらに、自治体によっては広告審査会が2ヶ月に一度や3ヶ月に一度と低い頻度で開催されることがあり、デザインの承認までに時間を要することがあります。修正が必要となった場合は次の審査会まで待つことになるため、スケジュールには十分な余裕が必要です。これらの工程は、ラッピングバス広告を計画的に進めるうえで重要な要素になります。
素材選定と施工に求められる専門性

ラッピングバスの施工には、車両用に開発された専用フィルムが使用されます。一般のステッカー用フィルムや看板用フィルムでは、雨風、紫外線、温度変化、走行時の振動といった過酷な環境に耐えられないためです。
3M、エイブリーデニソン、リンテックなどのフィルムメーカーが製造する車両用フィルムは、耐候性、追従性、耐熱性などの性能を備えています。
特に重要とされるのが剥離性能です。
フィルムを剥がす際に糊が残らないことはもちろん、車体の塗装を傷つけないことが求められます。複数のフィルムメーカーの技術資料では、路線バスの外板は補修歴や塗膜の状態に個体差があるため、剥離時のリスクを踏まえた素材選定の重要性が指摘されています。さらに、公共交通機関に使用されるため、燃焼試験をクリアした素材のみが許可される点も特徴です。
施工は日中にバスの運行を1日取りやめて行われることが多く、気温や湿度により施工可能日が制限される場合があります。冬場はフィルムの密着性が低下するため、施工スケジュールの調整が必要です。撤去時も専門技術が必要で、車体を傷めないための丁寧な作業が求められます。

費用構造と事前に把握しておきたい項目
ラッピングバスの費用は、広告費、デザイン費、フィルム出力費、施工費、撤去費など複数の項目から構成されています。
広告費はバス会社や路線により大きく異なり、フルラッピングバスの場合1台1年間で60~400万円程度です。パートラッピングの場合は利用する面やその数にもよりますが、概ねフルラッピングの2/3~1/3程度で可能な場合が多いようです。
デザイン費・フィルム出力費・施工費・撤去費は、前項でも記した通り特殊な素材を使用するため高くなりがちで、フルラッピングバスの場合100~120万円程度からというところが多いようです。(使用する素材や地域性などにより異なります。)
その他にも、ラッピング部分に関する事故や破損に備えるため動産保険(年間数万円程度)への加入が必要となり、別途自治体の広告審査費が数万円ほど発生することもあります。これらの費用要素を事前に把握しておくことで、予算計画が立てやすくなります。
ラッピングバスが向いているケース
ラッピングバスは地域での認知獲得を重視する企業に最も向いています。その相性の良さから、以下のような明確な商圏を持つ業種や、長期的なブランド戦略を持つ企業に特に推奨されます。
学習塾や予備校は、生徒の通学経路や生活圏を走るバスで露出を高めることで、地域内での競合との差別化を図れます。医療機関(病院、クリニック、歯科)は、地域住民に対し、場所の認知だけでなく診療内容の信頼性を視覚的に訴求できます。スーパーや地域の大型商業施設、不動産会社など、来店や来場を伴うビジネスは、生活者の日常動線に沿って広告を反復接触させることで、来店動機を高める効果が期待できます。
また、ラッピングバスは広告を地域に根付かせることで効果が高まる媒体であるため、短期的なキャンペーンよりも、企業ブランドやサービスメッセージを長期間にわたり地域に浸透させていく中長期のブランディング施策に最適です。
さらに、大型商業施設や大企業などで、新製品の発売や企業イメージの刷新に合わせて、全国的に一斉にブランディング対策としてラッピングバスを走らせるケースもあります。その場合の予算感は、1億円程度~となります。(例えば、1台あたり広告費・施工費含めて200万円として、全国10都市に5台ずつ走らせるようなケース)
地域に深く根ざし、繰り返し接触する特性を活かし、広範囲または長期間にわたる認知の定着を目指す場合に、ラッピングバスは強力な媒体となります。
出稿をお考えの方は
ラッピングバス広告は、華やかな反面、素材選定、自治体審査、施工、保険など、事前に理解しておきたい専門要素が多い媒体です。もし「自社でも導入できるのか知りたい」「どの形式が効率的か相談したい」と感じられましたら、いつでもお気軽にご相談ください。商圏と運行エリアの相性確認から、素材やデザインの選び方、審査手続きの見通しまで、実務に基づいた具体的なアドバイスをご提供いたします。





