2026年2月2日
マーケティング「知っている」から「選ばれる」へ 広告を続ける本当の意味
前回のコラムでは、広告担当者の引き継ぎについて書きました。
広告運用で得られたノウハウは、意識して残さないと消えてしまう。だから日頃から「引き継げる状態」をつくっておきましょう、という話でした。
引き継ぎの話をしていて気づいたことがあります。広告を「一回きりのもの」と考えている企業が、思いのほか多いのです。キャンペーンが終われば終了、予算を使い切ったら完了。そういう感覚で広告に取り組んでいると、せっかくの投資が積み上がっていきません。
「効果がすぐ見えないから続ける理由がわからない」「予算が厳しいから一旦止めよう」。その場の判断としては筋が通っています。でも、広告には「続けること」それ自体に意味があります。
一度見てもらっただけでは、名前を覚えてもらう段階で止まります。「知っている」と「選ばれる」は違います。何度も目にしてもらうことで、ようやく比較検討の候補に入れるようになる。広告の継続出稿には、そういう役割があります。
ここでは、「知っている」と「選ばれる」の間にある距離について書いていきます。認知を広げるだけでは足りない理由、広告を続けると何が変わるのか、そして継続を仕組みとしてどう支えるかを整理します。
認知と指名検索の間にある「想起」という壁
広告の目的を聞かれたとき、「まず知ってもらうこと」と答える方は多いでしょう。知られていなければ選ばれようがない。認知はすべての出発点です。
ただ、「知っている」と「選ぶ」の間には、見た目以上に距離があります。
たとえば引っ越しを考えているとき、業者の名前をいくつ挙げられるでしょうか。5社、10社と出てくる人もいるはずです。CMで見た、トラックを見かけた、友人が使っていた。いろんなきっかけで、多くの業者を「知っている」状態にはあります。
では、実際に見積もりを取るとき、その全社に連絡するでしょうか。たいてい2社か3社です。「知っている」業者の中から、さらに絞り込みが行われている。この絞り込みで残るかどうかが、広告の本当の勝負どころです。
助成想起と純粋想起と第一想起の違い
マーケティングの世界では、「知っている」にも段階があることが知られています。
最も浅い段階が「助成想起」。
選択肢を見せられて「ああ、それなら知っている」と思い出せる状態です。リストを見て「聞いたことがある」と答えられるレベル。
次が「純粋想起」。
ヒントなしで自分から名前を挙げられる状態です。「引っ越し業者といえば?」と聞かれて、すっと名前が出てくるかどうか。
最も深い段階が「第一想起」。
真っ先に思い浮かぶブランドです。
第一想起を取れているブランドは強い。最初に検討してもらえるし、リピートでも選ばれやすい。P&Gがマーケティングの最終ゴールとして掲げている「想起集合に入る」とは、まさにこの状態を指しています。
人は、思い出せないブランドを選べません。だから、認知を「深い段階」まで引き上げる必要があります。
「知られている」だけでは検討候補に残れない

「うちの会社は、それなりに知られているはずだ」。そう考えている企業は少なくありません。業界内では名前が通っている、取引先からは認識されている、ということはあるでしょう。
ただ、その認知は「助成想起」止まりのことが多い。「言われれば知っている」と「真っ先に思い浮かぶ」では、選ばれる確率がまるで違います。
BtoBの場合、比較検討で候補に挙がるのはたいてい3社から5社。その枠に入るには、「知られている」だけでは足りません。「すぐに思い出せる」状態でなければ、検討の土俵にすら上がれない。
BtoCでも同じです。店頭で商品を選ぶとき、全ブランドを比較検討しているわけではありません。無意識に「候補」が絞られていて、その中から選んでいる。この候補に入れなければ、どれだけ品質が良くても手に取ってもらえません。
ここで厄介なのは、競合も同じように認知を獲得しようとしていることです。市場全体の「想起シェア」は100%で固定されています。自社が広告を止めても、競合は止めません。結果として、自社の存在感は薄れ、競合に顧客を奪われていく。逆に言えば、競合が広告を控えている時期に自社が継続していれば、相対的にポジションを高めるチャンスにもなります。
「うちは口コミで広がるから」「営業力があるから」という声もあります。口コミも営業も顧客接点としては大事です。ただ、口コミが広がるにはそもそも話題にのぼる必要がありますし、営業が効くには「聞いたことがある」という下地がいる。広告は、口コミや営業の効果を底上げする土台でもあります。
広告の継続出稿がブランド想起を深くする理由
認知を深い段階に引き上げるには、繰り返し見てもらうことと、一貫したメッセージを届け続けることが必要です。
一度広告を見ただけで第一想起になることはありません。「またあの広告だ」「またあの会社だ」という経験が積み重なって、ようやく記憶に残ります。
広告の残存効果とアドストック
広告の効果測定でよく使われる概念に「残存効果」があります。広告を出稿した後も、その効果がしばらく続くという考え方です。英語では「アドストック」とも呼ばれます。
CMを見た翌日の帰りに飲み物を買う。家電を検討するときに、以前見た広告を思い出す。広告は見た瞬間だけでなく、後からじわじわ効いてきます。
この残存効果は、広告を「投資」として捉える根拠にもなります。広告費を使った瞬間だけでなく、その後もしばらく効果が続くなら、それは一種の「資産」と言えるからです。
ただ、この残存効果は時間とともに薄れます。広告を止めれば、徐々に忘れられていく。ニールセンの分析によれば、広告を1四半期止めると収益に2%の影響があり、1年止めると11%もの減収につながるという結果が出ています。
11%という数字は、決して小さくありません。年商10億円の企業なら、1億1000万円の減収です。広告を止めて浮いたコストよりも、失う売上のほうが大きいケースは珍しくないでしょう。
広告を再開しても、以前のレベルに戻るまでには時間がかかります。想起のポジションを維持するには、継続して出稿し続けることが必要です。止めたり再開したりを繰り返すよりも、予算を抑えてでも継続するほうが、トータルでは効率的な場合が多いのです。
メッセージの一貫性がブランド記憶を強くする
繰り返し見てもらうことに加えて、もう一つ欠かせないのが「一貫性」です。
毎回違うメッセージを発信していると、「この会社は何をやっているのか」がぼやけます。同じメッセージを繰り返すことで、「この会社といえばこれ」というイメージが定着します。
広告、Webサイト、営業資料、店頭。どの接点でも同じ意味が伝わり続けることで、ブランドは記憶に残りやすくなります。クリエイティブの表現は変えても、伝えたいことの核は変えない。この一貫性が、想起を強くします。
交通広告やOOHで継続出稿が効く理由
交通広告の場合、同じ路線で継続的に出稿することに意味があります。
「またこの駅であの広告を見た」「この路線では必ずあの会社の広告がある」。そうした経験が、認知を深い段階に引き上げます。
毎日同じ路線で通勤する人にとって、繰り返し目にする広告は自然と記憶に残ります。「通勤途中でいつも見るあの会社」という認識が生まれる。いざその商品が必要になったとき、「そういえばあの会社があった」と思い出すきっかけになります。
あちこちの路線で単発の広告を出しても、記憶には残りにくい。「どこかで見た気がする」程度の助成想起にはつながっても、純粋想起や第一想起にはなかなか届きません。
交通広告は、同じ人に繰り返し見てもらえるという特性があります。通勤・通学で毎日同じ路線を使う人に、何度も接触できる。この特性を活かすなら、短期集中より継続出稿のほうが効果的です。
駅や電車内の広告でいえば、同じ場所に3か月、半年と出し続けることで、「あの場所にはあの会社の広告がある」という固定観念が生まれます。これは、一等地を押さえ続けることの価値でもあります。場所を変えながら単発で出すよりも、同じ場所で継続するほうが、記憶への定着という点では有利です。
看板広告も同じです。街の風景の一部として定着するほど長く出していると、その看板がなくなったときに「あれ、何か違う」と感じる人が出てきます。そこまで定着すれば、かなり深い認知を獲得できている証拠です。屋外広告の場合、同じビルの壁面に何年も出し続けている広告は、その地域の「風景」になっています。費用はかさみますが、競合がその場所を取れないという意味でも、継続出稿には戦略的な価値があります。
短期の刈り取り広告と中長期の認知広告を両立させる

ここまで読んで、「でも、すぐに成果が欲しい」と思った方もいるでしょう。広告には短期的な成果を求められることが多いものです。今月の問い合わせを増やしたい、今期の売上を伸ばしたい。そうした要請は当然あります。
ポイントは、短期施策と中長期施策の役割を分けて考えることです。
短期施策は、今すぐ行動を促す広告。検索広告、キャンペーン告知、期間限定の割引訴求など。すでに検討段階にいる人を刈り取るための施策で、効果測定もしやすい。
中長期施策は、まだ検討段階にいない人に向けた広告。認知を広げ、想起を深め、将来の検討候補に入ることを目指します。効果はすぐには見えませんが、これがなければ刈り取る対象が先細りしていきます。
この2つは補完関係にあります。中長期施策で認知を広げておくと、短期施策の効果が上がる。「聞いたことがある会社」と「まったく知らない会社」では、広告のクリック率も問い合わせ率も違います。
想像してみてください。検索広告で「引っ越し業者」と調べた人に広告が表示されたとします。一方は名前を知っている会社、もう一方は聞いたことがない会社。どちらをクリックするでしょうか。多くの人は、知っている会社を選びます。認知という土台があるからこそ、刈り取り施策が効くのです。
短期施策だけに頼っていると、検索広告で取れる「今すぐ欲しい人」だけを追いかけることになります。その市場は限られている。競合も同じパイを狙いますから、クリック単価は上がり、利益率は下がる。認知投資で市場を広げておかないと、いずれ頭打ちになります。
逆に、中長期施策だけに偏ると、足元の数字が立たなくなります。「いずれ効いてくる」だけでは、予算を確保し続けるのが難しい。両方をバランスよく回すことで、今の成果と将来の土台を同時に積み上げられます。
企業のフェーズによって、配分の目安は変わります。スタートアップや新規事業なら、まず認知を広げる必要があるので中長期施策の比重を高める。市場に名前を知ってもらわないことには、刈り取りようがないからです。すでに認知がある企業なら、刈り取り施策の比重を高めつつ、認知を維持する投資を続ける。認知は放っておくと薄れていきますから、維持のための投資は欠かせません。
業種によっても変わります。検討期間が長いBtoB商材や高額商品は、認知投資の比重が高くなりやすい。逆に、衝動買いが多い低価格帯の日用品は、刈り取り施策の比重が高くなりがちです。どちらか一方だけでは、持続的な成長は難しいでしょう。
認知広告の効果を指名検索で測る方法
中長期の認知投資で難しいのは、効果が数字で見えにくいことです。
短期の獲得広告なら、クリック数、問い合わせ数、成約数という形で測れます。「広告費100万円で問い合わせ50件、成約10件」と報告できる。費用対効果も計算しやすいので、予算会議でも説明しやすい。
認知広告はそうはいきません。「認知率が2ポイント上がりました」と言っても、売上とのつながりが見えにくい。「いずれ効いてくる」では、予算を確保し続けるのが難しくなります。経営層から「その広告、本当に意味があるの?」と聞かれたとき、明確に答えられないと、予算が削られてしまいます。
この問題に対処するには、いくつか工夫があります。
指名検索数を追いかける
認知がどこまで深まっているかを測る方法の一つが「指名検索」です。企業名やサービス名で直接検索されることを指します。
「引っ越し 安い」で検索する人は、まだどこに頼むか決めていません。一方、「サカイ引越センター」で検索する人は、すでにその会社を候補として意識しています。
指名検索が増えているということは、純粋想起のレベルで認知されている人が増えているということ。広告を出して認知を広げると指名検索が増え、問い合わせや売上につながる。この流れを追いかけることで、認知広告の効果を見える形にできます。
GoogleサーチコンソールやWeb広告の管理画面で、指名検索の推移を確認できます。広告を出している期間と止めている期間で、どう変わるか。この変化を見れば、認知広告が効いているかどうかがわかります。
指名検索数は、認知の「深さ」を測る代理指標として使えます。単純に「知っている」だけでなく、「自分から検索するほど気になっている」という状態を示しているからです。この数字が増えていれば、認知が深まっている証拠です。
「止めたらどうなったか」を記録しておく
広告を止めたときに何が起きたか。これも強い証拠になります。
止めていた期間と出稿していた期間で、指名検索数にどんな差があるか。問い合わせの件数や質に変化はあったか。こうしたデータがあれば、「止めるとこうなる」という形で効果を示せます。
過去に認知広告を止めた経験がある企業なら、そのときのデータを残しておくことをおすすめします。「あのとき止めたらこうなった」というエビデンスは、次に予算を確保するときの材料になります。
逆説的ですが、広告を止めたことがある企業のほうが、継続の価値を説明しやすいこともあります。「3年前に半年止めたら、指名検索が30%減った」というデータがあれば、「だから今は止めないほうがいい」という判断に説得力が出ます。
もし今、認知広告を止めようとしているなら、止める前の数字をしっかり記録しておいてください。指名検索数、問い合わせ数、営業先での反応。止めた後にこれらがどう変わるかを追いかければ、将来、広告を再開するときの判断材料になります。
現場の声を集める

営業担当から「最近、初対面でも『聞いたことがあります』と言われることが増えた」という報告があれば、認知広告が効いている証拠です。数字にはなりにくいですが、現場の実感には説得力があります。
問い合わせ時に「どこで知りましたか」と聞いて、広告経由の比率を追いかける方法もあります。交通広告を見て問い合わせてきた人がどれくらいいるか。直接の因果関係は証明できなくても、傾向は見えてきます。
広告の継続を支える仕組みをつくる
広告を続けることの意味は理解していても、実際には難しい局面があります。
担当者が変わったタイミングで方針が変わる。「前任者がやっていたから」という理由で続けていた広告を、新しい担当者が「効果がわからない」と止めてしまう。上層部から「成果が見えない」と言われて打ち切りになる。
広告を止めてしまうきっかけは、だいたい決まっています。担当者の交代、予算の見直し、経営層からの説明要求。こうした局面で「なぜ続けているのか」を説明できないと、止める判断に傾きやすい。
こうした事態を防ぐには、仕組みが必要です。
引き継ぎで「なぜ続けているか」を残す
前回のコラムで触れた「引き継ぎ」が、ここでも効いてきます。
なぜこの広告を続けているのか、どんな役割を期待しているのか、成果をどう測っているのか。判断の背景を言葉にして残しておくことで、担当者が変わっても方針を維持しやすくなります。
中長期施策については、何をもって成果とするかを事前に決めておくことも大事です。指名検索数の推移、問い合わせ時のアンケート結果、営業現場での反応。完璧な測定はできなくても、変化を追いかける指標を持っておけば、「効果がわからないから止める」という判断を避けられます。
指標を決めておくことには、もう一つの意味があります。広告を続けている期間のデータを蓄積できることです。「この広告を3年続けた結果、指名検索がこれだけ増えた」というデータがあれば、予算を確保するときの強い材料になります。止めてしまうと、このデータは途切れてしまいます。
予算・社内理解・代理店との関係
継続を支えるポイントは3つあります。
一つ目は、予算の確保。単年度で成果を求められる枠だけでは、中長期施策を続けるのは難しい。「認知投資枠」「ブランド枠」という形で、短期成果とは別の枠を設けている企業もあります。予算の名目を分けることで、「この広告は今期の売上に直結しなくても、続ける意味がある」という位置づけを明確にできます。
二つ目は、社内の理解。中長期施策の効果は、数字ですぐには見えません。経営層や他部門に「なぜ続けているのか」を説明できる言葉を持っておく必要があります。「認知を深めることで、営業の成約率が上がる」「指名検索が増えると、広告のクリック単価が下がる」。こうした説明ができれば、理解を得やすくなります。
三つ目は、代理店との関係。代理店はクライアントの意向に沿って動きます。「すぐに成果が欲しい」という要請ばかり伝えていると、短期施策ばかりが提案されます。「中長期の認知投資も重視している」と共有しておけば、バランスの取れた提案を引き出しやすくなります。代理店にとっても、長期で付き合えるクライアントは大事です。認知投資の意義を共有できれば、パートナーとして一緒に考えてもらいやすくなります。
まとめ
「知っている」と「選ばれる」の間には、想像以上の距離があります。
認知には助成想起、純粋想起、第一想起という階層があり、深い段階にいるブランドほど選ばれやすい。P&Gが掲げる「想起集合に入る」こと、さらに言えば第一想起を獲得することが、広告コミュニケーションの最終ゴールです。
この階層を上げるには、繰り返しの接触と一貫したメッセージが必要です。広告には残存効果があり、出稿後もしばらく効き続けます。ただ、止めれば忘れられていく。ニールセンの分析では、広告を1年止めると11%の減収につながるという結果が出ています。
当社のコラムでは、広告を「資産」として捉える視点を繰り返し紹介してきました。年度末の振り返り方、認知を貯金するという考え方、予算に根拠を持たせる判断軸、担当者の引き継ぎ。テーマは違っても、「広告は会社に残る」という発想は共通しています。
「選ばれる力」も資産の一つです。第一想起を獲得している企業は、問い合わせが自然と集まり、営業先で「聞いたことがあります」と言われ、価格競争に巻き込まれにくくなる。
短期の刈り取りで足元の成果を確保しながら、中長期の認知投資で将来の土台をつくる。このバランスを意識しつつ、担当者が変わっても続けられる仕組みを整えておく。認知広告は効果が見えにくいからこそ、指名検索や現場の声といった中間指標を追いかけ、「なぜ続けるのか」を説明できる言葉を持っておくことが必要です。
広告は、単発で終わらせるものではありません。続けることで初めて、「知っている」が「指名される」に変わります。その積み重ねが、会社の競争力を支える資産になっていきます。
広告の継続についてお悩みの方は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。






