2026年2月9日

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インクリメンタリティ(増分効果)とは CPAだけでは見えない広告効果の測り方

 

広告の成果は、本当に正しく測れているのでしょうか。
CPA(顧客獲得単価)が下がり、クリック数も伸び、管理画面の数字はきれいに整っている。それでも「なぜか売上が思ったほど伸びない」「広告費を増やしても手応えがない」。そんな経験がある方は少なくないはずです。

数字は嘘をつかない。でも、数字がすべてを語っているわけでもない。
多くの場合、その違和感の原因は広告配信そのものではなく、成果の見方にあります。クリックやコンバージョンは、実際に起きた行動を数値として示してくれますが、「その広告がなければ、その行動は本当に起きなかったのか」までは教えてくれません。
そこで注目したいのが、インクリメンタリティという考え方です。日本語では「増分効果」とも呼ばれます。難しそうに聞こえるかもしれませんが、要は「広告を出したことで、新しく増えた成果がどれくらいあったのか」を見る視点です。

この考え方自体は以前から存在していましたが、近年あらためて注目されるようになっています。その背景には、広告接触から購入までの経路が複雑になったこと、プライバシー保護の観点からユーザー単位での追跡が難しくなってきたことなどがあります。従来のラストクリック型の評価では捉えきれない部分を補う視点として、インクリメンタリティへの関心が高まっています。

ここでは、インクリメンタリティの基本的な考え方と、大がかりなツールを使わずに始められる小さなA/Bテストの方法について説明していきます。

 

なぜクリックやCPAだけでは判断できないのか

広告の管理画面に並ぶ数字は、一見すると頼りになる判断材料に見えます。けれど、その数字が「広告の本当の効果」を示しているかどうかは、また別の話です。まずは、従来の指標が抱える限界を整理しておきましょう。

クリック指標がうまくいかなくなっている理由

広告の成果を測る方法として、クリック数やコンバージョン数は長く使われてきました。広告がどれだけ反応されたかを、誰でも同じ基準で確認できるからです。実際、これらの指標が役に立たなくなったわけではありません。
ところが近年、クリックやコンバージョンの数字だけを見ていると、判断を誤りやすくなっています。広告を取り巻く環境が大きく変わったためです。

現在のユーザーは、一つの広告だけを見て行動を決めているわけではありません。検索広告、SNS広告、動画広告、メール、口コミ。複数の接点を経てから購入や問い合わせに至るケースがほとんどです。その中で、たまたま最後にクリックされた広告だけが「成果を生んだ」と評価されてしまう。これはよくある話です。
また、指名検索やリマーケティング広告のように、もともと興味や関心が高い人に配信される広告は、クリック率やCPAが良く出やすい傾向があります。数字だけを見ると成果が出ているように見えますが、それが本当に広告による効果なのか、それとも自然な行動を後追いしているだけなのかは、クリック指標からは判断できません。

こうした状況でも、クリック数やCPAは分かりやすく、説明もしやすいため、つい重視されがちです。報告資料にも載せやすいですし、前月比や前年比といった比較もしやすい数字です。けれど、「測れていること」と「判断に使えること」は必ずしも同じではありません。ここに、現在の広告評価が抱えるズレがあります。

なぜCPAやROASだけでは判断を誤りやすいのか

広告の成果を判断する指標として、CPAやROASは多くの現場で使われています。
CPAは、顧客を1人獲得するために広告費がいくらかかったかを見る指標です。広告費を問い合わせ数や購入数で割って算出され、効率の良し悪しを把握しやすい数字です。一方、ROASは、使った広告費に対してどれくらいの売上が得られたかを見る指標で、広告の費用対効果を判断するために用いられます。
これらの指標は、広告運用において非常に便利です。ただ一つ、どちらにも共通する特徴があります。「実際に起きた結果」をもとに計算されているという点です。そこには、「その成果が広告によって新しく生まれたものなのかどうか」という区別は含まれていません。

たとえば、もともと購入意欲が高いユーザーが、指名検索やリマーケティング広告をクリックして購入した場合でも、その成果はCPAやROASの計算にそのまま含まれます。数字上は広告が成果を生んだように見えますが、広告がなければ本当にその購入は起きなかったのかは分かりません。
CPAやROASは「成果をまとめて見る」指標である一方で、「広告がどれだけ後押ししたか」を切り分けることはできません。そのため、数字が良いにもかかわらず、広告費を増やしても全体の成果が伸びない、あるいは広告を止めても大きな変化が見られないといった状況が起こります。

CPAやROASが間違っているわけではありません。ただ、それだけでは見えないものがある。増分効果の視点を持たないままCPAやROASだけで判断すると、広告の役割を過大評価したり、逆に過小評価したりするリスクが高まります。
広告の成果を考える際には、「この数字は何を含んでいて、何を含んでいないのか」を意識することが欠かせません。その問いに向き合うための考え方が、増分効果です。

 

インクリメンタリティ(増分効果)という考え方

では、広告の効果をどう捉え直せばよいのか。ここで登場するのが、インクリメンタリティという考え方です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、考え方自体はシンプルです。

「増分効果」とは何か

クリックやCPAだけでは判断が難しくなっているとしたら、広告の成果は何を基準に考えればよいのでしょうか。そのヒントになるのが、「その広告がなかったら、結果はどうなっていたか」という視点です。

広告を出した結果、売上や問い合わせが増えたとしても、そのすべてが広告のおかげとは限りません。もともと購入するつもりだった人が、広告を見ただけという場合もあります。逆に、広告がなければ行動しなかった人もいるはずです。
ここで考えたいのが、広告によって新しく生まれた成果がどれくらいあったのか、という点です。この「新しく増えた分」を捉えようとする考え方が、インクリメンタリティです。日本語では増分効果と呼ばれます。

たとえば、ある広告を配信した期間に100件の購入があったとします。もし広告を出していなくても80件は発生していたとしたら、広告によって増えた成果は20件。この20件こそが、広告の増分効果です。クリック数やCPAは100件すべてを成果として扱います。でも、インクリメンタリティは「差分」に注目する。そこが違います。
この考え方自体は新しいものではありません。広告効果測定プラットフォームを提供するAdjust社やAppsFlyer社も、インクリメンタリティを「マーケティング費用によって増加したコンバージョン数の割合」として解説しています。デジタル広告の管理画面だけを見ていると意識しづらいのも事実ですが、多くの現場で「成果は出ているはずなのに、手応えがない」という感覚が生まれやすいのは、この視点が欠けているからかもしれません。

インクリメンタリティは、広告を疑うための指標ではありません。むしろ逆です。広告がどの部分で本当に役割を果たしているのかを見つけ出し、その価値を正しく評価するための視点です。

インクリメンタリティは「大企業だけの話」ではない

インクリメンタリティという言葉に対して、「分析が難しそう」「自社の規模では無理そう」と感じる方は少なくありません。実際、専門的な資料や海外事例を見ると、大規模なユーザー数や専用の分析環境を前提にした話が多く、日々の広告運用とは距離を感じることもあります。

ところが、広告代理店としてさまざまな現場を見ていると、インクリメンタリティの考え方が必要になる場面は、むしろ中小規模の広告運用で多いと感じます。月額30万〜100万円程度の予算で運用している広告主こそ、「数字が良く見える施策」と「本当に事業に効いている施策」を切り分けなければならない場面が出てきます。

たとえば、BtoBのサービス業で月額50万円ほどの広告費を運用しているケース。
指名検索とリマーケティング広告のCPAが非常に良く、管理画面上では安定した成果が出ていました。ところが、予算を増やしても新規の問い合わせ数はほとんど増えない。売上全体の伸びも頭打ち。広告を細かく見ていくと、成果の多くが、すでに検討段階に入っていたユーザーによるものでした。
このようなケースでは、CPAやROASだけを見ていると「うまくいっている広告」に見えます。ところが、「その広告がなければ本当にその成果は起きなかったのか」という視点で見ると、評価は変わってきます。広告が後押しした部分と、自然に発生していた成果が混ざってしまっています。

また別の現場では、EC事業者の広告を運用していたときのこと。
数字があまり良くないと判断され、早い段階で配信を止められた広告がありました。認知目的のディスプレイ広告です。ところが配信を止めてみると、新規の流入が目に見えて減った。指名検索も減った。問い合わせ数にも影響が出ました。管理画面の数字だけでは見えなかった増分が、実際には存在していたわけです。

こうした経験から見えてくるのは、インクリメンタリティとは特別な分析を行うための考え方ではなく、広告の数字をどう解釈するかの問題だということです。限られた予算の中で意思決定を行う広告主にとって、むしろ身近で実務的な考え方ではないでしょうか。

 

小さく始めるA/Bテストの実践

インクリメンタリティの考え方は分かった。では、実際にどうやって増分を確かめればいいのか。ここでは、専用ツールや大規模なデータがなくても取り組める、現実的な方法を紹介します。

小さく始めるA/Bテストの考え方

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インクリメンタリティを意識するうえで、必ずしも厳密な実験や高度な分析が必要になるわけではありません。実務の現場では、広告の役割を考えるための材料を少しずつ増やしていくことが求められます。そのための現実的な方法が、「小さく始めるA/Bテスト」です。
A/Bテストというと、配信条件を完全に揃えたうえで、広告を出す場合と出さない場合を厳密に比較するイメージを持たれがちです。けれど、日々の広告運用の中で、そこまで理想的な環境を整えるのは簡単ではありません。「完璧な設計ができるまで待つ」より、「今できる範囲で比べてみる」ことを優先する場面は多くあります。

たとえば、特定のエリアだけ広告配信を止めてみる。曜日や時間帯を限定して配信量を調整してみる。特定のキャンペーンだけ一時的に予算を下げてみる。こうした方法でも、増分を考えるヒントは得られます。このとき気をつけたいのは、一度に多くの要素を変えないことです。条件を一つに絞ることで、「何が影響したのか」を考えやすくなります。
また、テストの期間も長く設定する必要はありません。数日から数週間といった短い期間でも、「止めたらどうなったか」「減らしたらどう変わったか」を見ることは可能です。ここで得られる結果は、あくまで傾向をつかむためのものですが、感覚だけで判断するよりも、はるかに納得感のある判断材料になります。

注意したいのは、A/Bテストの結果を過信しすぎないことです。短期間のテストでは、季節要因や外部要因の影響を完全に排除することはできません。「明確な差が出なかった」「思ったほど変化がなかった」という結果も含めて、広告の役割を考える材料として受け止める姿勢が求められます。

小さく始めるA/Bテストは、広告の効果を「証明」するための手段ではありません。証明しようとすると、完璧を求めてしまう。そうではなく、広告を続けるべきか、見直すべきか、次にどこへ予算を振るべきかを「考える材料」を得るための補助線です。インクリメンタリティは、こうした小さな比較を積み重ねることで、徐々に理解できるようになります。
実際、広告効果測定の専門家たちも、インクリメンタリティを計測する基本的な方法として、広告を表示するグループと表示しないグループを比較するテストを挙げています。完璧な実験環境を整えることは難しくても、「比較する」という姿勢を持つことが、増分効果を意識する第一歩になります。

インクリメンタリティでよくある誤解

インクリメンタリティの考え方を取り入れようとすると、いくつか誤解が生まれやすいポイントがあります。ここを整理しておかないと、せっかくの視点が極端な判断につながってしまう。よくある落とし穴を見ておきましょう。

まず多いのが、「広告を止めたら売上が下がった。だからこの広告には増分があった」と短絡的に結論づけてしまうケースです。確かに、配信停止後に数字が落ちたのであれば、広告が何らかの役割を果たしていた可能性はあります。とはいえ、その変化がすべて広告によるものかどうかは慎重に見る必要があります。季節要因、競合の動き、他施策の影響。いろいろな要素が重なっていることも少なくありません。
逆に、「広告を止めても数字があまり変わらなかった。だからこの広告は意味がない」と判断してしまうのも早計です。短期間の比較では、もともと変動が小さい指標もありますし、影響が少し遅れて表れる場合もあります。増分が小さいことと、広告が無価値であることは必ずしも同義ではありません。

また、インクリメンタリティを「正確な数値で証明しなければならない」と考えてしまうのも、現場ではよくある誤解です。実務で求められるのは、厳密な増分率を出すことではなく、判断の方向性を誤らないことです。「思っていたほど効いていなさそうだ」「この施策は新規獲得に寄与していそうだ」といった気づきが得られれば、それだけでも十分に意味があります。

インクリメンタリティの結果だけで施策を即断することはほとんどありません。他の指標や事業状況とあわせて見ながら、「どう解釈するか」「次に何を試すか」を考える材料として扱います。増分効果は、答えを一つに決めるためのものではなく、考えるための視点だと捉えるほうが現実的です。
インクリメンタリティを正しく使うには、結果を白黒で判断しようとしないことです。グレーを受け入れる。広告の役割を少しずつ理解していく。そのための補助線として使うことで、はじめて意味を持つ考え方になります。

なお、インクリメンタリティとアトリビューション分析は、相反するものではなく補完し合う関係にあります。アトリビューションが「どの接点が成果に貢献したか」を見る視点だとすれば、インクリメンタリティは「その広告がなければどうなっていたか」を見る視点です。両方を組み合わせることで、広告の役割をより立体的に理解することができます。

 

増分の視点を意思決定に活かす

増分効果を意識することで、広告の見え方は変わります。けれど、見え方が変わっただけでは意味がありません。その視点を、実際の判断にどうつなげていくか。ここが本当のゴールです。

増分の視点をどう意思決定につなげるか

インクリメンタリティの考え方は、広告の成果を評価するためだけのものではありません。本当の価値は、その先にあります。「次にどうするか」を判断できるようになること。それがインクリメンタリティを学ぶ意味です。
広告を続けるのか、予算を増やすのか、あるいは別の施策に切り替えるのか。こうした意思決定の場面で、増分の視点は力を発揮します。

たとえば、CPAやROASは良いものの、増分があまり感じられない施策があったとします。この場合、その広告は「成果を回収している」役割は果たしていても、「新しい成果を生み出す」役割は小さいかもしれません。であれば、新規獲得を目的とした別の施策に一部予算を振り分ける、といった判断が考えられます。
逆に、CPAだけを見ると効率が悪く見える施策でも、配信を止めた際に全体の成果が明らかに落ちるようであれば、その広告は事業にとって欠かせない役割を担っている可能性があります。この場合、短期的な数字だけで切り捨ててしまうと、結果的に機会損失につながることもあります。
増分の視点を持つことで、広告主との会話の質も変わります。「数字が良い・悪い」という話だけでなく、「この施策はどこに効いていそうか」「事業全体の中でどういう役割を期待するのか」といった、より本質的な議論ができるようになります。

インクリメンタリティを唯一の正解として扱わないこともお伝えしておきたい点です。CPAやROAS、現場の感覚、事業フェーズなどとあわせて考えることで、初めて意思決定に使える材料になります。増分の視点は、広告評価を複雑にするためのものではありません。判断の精度を少しだけ上げるための考え方です。
たとえば、ブランド認知を目的とした広告と、直接的な購入を促す広告では、増分の現れ方も異なります。前者は短期間では数字に表れにくく、後者は比較的すぐに結果が見えやすい傾向があります。広告の目的や役割に応じて、増分をどう捉えるかも変わってきます。

広告の成果は「数字」ではなく「判断の質」で決まる

ここまで見てきたように、クリックやCPA、ROASは、広告の成果を把握するうえで欠かせない指標です。けれど、それらはあくまで「起きた結果」を整理した数字であり、その数字をどう解釈し、どう判断につなげるかは別の問題です。

広告運用の現場では、数字が良ければ続け、悪ければ止める。その判断が繰り返されています。けれど、その判断が本当に事業にとって正しかったのか。あとになっても分からないことが少なくありません。数字自体は合っていても、見ている範囲が狭ければ、判断は簡単にズレてしまいます。
インクリメンタリティの考え方は、そのズレに気づくための視点です。広告の成果を「すべて広告のおかげ」とも、「広告は意味がない」とも決めつけず、その中間を冷静に考えるためのものです。完璧な答えを出すことよりも、判断の質を少しずつ上げていくことに価値があります。

広告主の立場でも代理店の立場でも、広告の成果をどう説明し、どう意思決定するかは、これまで以上に求められるようになっています。クリックやCPAを並べるだけでは足りない。「この広告はどこに効いていそうか」「何を後押ししているのか」を言葉にできるかどうかで、広告の使い方は大きく変わります。

クリックを見るのをやめる必要はありません。けれど、クリックだけで判断する時代は終わりつつあります。見える数字と、見えない効果。その両方を意識することが、これからの広告運用には求められます。
広告の成果を「管理画面の数字」から一歩引いて見直し、「その広告がなければ何が起きていなかったのか」を考える。その視点を持つことが、これからの広告運用における一つの基礎になるはずです。

まずは大きな改革を目指す必要はありません。小さく比べて、小さく疑って、小さく確かめる。その積み重ねが、広告を「使われるコスト」から「判断に耐える投資」へ変えていきます。

 

まとめ

ここまでお読みいただき、広告の成果を「クリック」や「CPA」だけで判断することに、少しでも引っかかりを感じていただけたなら、それは大きな一歩です。インクリメンタリティという考え方は、特別な分析環境がなくても、広告の見方そのものを変えてくれます。
とはいえ、実際の運用では「どこを止めていいのか」「何を比べればいいのか」「その結果をどう解釈すればいいのか」と悩む場面も多いはずです。増分の考え方はシンプルですが、広告や事業の状況によって、適切な見方は変わります。

私たちは、日々の広告運用の中で、こうした「数字はあるが、判断に迷う」場面に数多く立ち会ってきました。管理画面の数値だけで結論を出すのではなく、その背景や役割を一緒に整理することで、次の一手が見えてくるケースも少なくありません。
今の広告が本当に新しい成果につながっているのか知りたい、CPAやROASは見ているが判断に自信が持てない、小さくでも増分を確かめてみたい。そう感じているのであれば、一度立ち止まって広告の見方を整理してみる価値はあります。

広告を「回すこと」から「判断に使うこと」へ。その切り替えを考えるきっかけとして、本記事がお役に立てば幸いです。次の一手にお悩みの方は、ぜひお問い合わせフォームからご相談ください。インクリメンタリティの読み解き方から、一緒に考えていきましょう。

 

 

 

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