2026年9月18日

マーケティング

面白いとスベるはどこで分かれるか 流行語を広告コピーに使うときの注意点

 

SNSや動画サイトでは、新しい言葉や若者言葉が次々に生まれています。短くて覚えやすく、独特の言い回しがおもしろいものも多いため、広告コピーにも取り入れてみたいと考えることがあるかもしれません。

ただし、友人同士の会話やSNSでは自然に使われている言葉でも、企業が公式の広告で使うと同じように受け取られるとは限りません。親しみやすく見えることもあれば、「無理に若者に寄せている」「流行に乗ろうとしてスベっている」と感じられることもあります。使う場面によっては、不謹慎な表現として受け取られる可能性もあります。

流行している言葉を使えば、それだけで広告がおもしろくなったり、話題になったりするわけではありません。その言葉がどこから生まれ、誰に使われ、どのような場面で受け入れられているのかまで理解したうえで、広告との相性を考える必要があります。

ここでは、ネット上で広がっている言葉をいくつか取り上げながら、流行語を広告コピーに使うときの注意点について説明します。

 

意味より使い方で広がる言葉

ネット上で広がる言葉の中には、辞書のように意味を説明するだけでは、その面白さが伝わりにくいものがあります。言葉の響きや使う場面、元の意味を少しずらした使い方などが重なり、知っている人同士の共通のノリとして広がっていくものです。

「ワホー」と「メロい」の面白さ

2026年にソニー生命が全国の中高生1,000人を対象に行った調査では、「自分のまわりで流行っている言葉」の1位が、中学生、高校生ともに「ワホー」でした。「テンションがあがったときにつかう」「特に深い意味はない」といった回答もあり、何か具体的な意味を伝えるというより、気分や勢いを表す言葉として使われています。
元になったのはYouTuberのSEIKINさんが過去の動画で発した言葉で、以前のコンテンツがSNSなどで再び取り上げられ、中高生の間で広がりました。

一方の「メロい」は、「メロメロになる」から派生した表現とされ、見た目や仕草、雰囲気などに心をつかまれたときに使われています。単純に「かわいい」「格好いい」と言うよりも、相手や物に気持ちを持っていかれるような感覚まで含めて使われる言葉です。

こうした言葉は、広告にも取り入れやすそうに見えます。若い世代を対象としたファッション広告で「この秋、メロい。」と使えば自然に見えるかもしれませんし、新商品の発売を知らせるSNS投稿に「ワホー」を添える方法も考えられます。

しかし、どんな商品や企業でも同じように使えるわけではありません。企業向けの業務システムを紹介する広告で「この機能、メロい。」と書いたり、真面目なお知らせに突然「ワホー」が登場したりすれば、言葉そのものよりも流行に合わせようとしている姿勢のほうが目立ってしまいます。
流行している言葉を知っていることと、その言葉を自然に使えることは別です。

偉人も新語になる「伊能忠敬界隈」

新しい言葉は、新しく作られた単語だけとは限りません。
「伊能忠敬界隈」は、長い距離を歩いた人や、たくさん歩いた状況を、全国を歩いて測量した伊能忠敬になぞらえた表現です。「○○界隈」というネット上でよく使われる言い回しに歴史上の人物を組み合わせることで、現在の出来事を少し大げさに表現する面白さが生まれています。

これも、広告に置き換えてみると使い方の差が見えてきます。
ウォーキングイベントで長いコースを歩き終えた参加者に向けて、「今日はみんな伊能忠敬界隈」とSNSで発信するのであれば、イベントの内容と言葉の意味が自然につながります。街歩きや観光をテーマにした企画でも、使い方によっては親しみやすい表現になるでしょう。

ところが、駅から離れた店舗が「駅から歩いて伊能忠敬界隈」と広告に書いたらどうでしょうか。
言葉としては面白くても、「そんなに歩くのか」「ずいぶん遠い店なんだな」と、本来伝えたかった内容とは違う印象を与えてしまうかもしれません。
ただし、同じ言葉でも「駅から歩いて伊能忠敬界隈。でも、○○バスなら駅から5分、バス停目の前です」と続ければ、印象は変わってきます。不便さをいったん流行語でネタにしたうえで、すぐに解決策を示しているため、言葉が悪目立ちせず自然になじみます。

ネット上では面白かった言葉が、広告になると急にスベって見える理由の一つはここにあります。流行語だから面白いのではなく、言葉が使われている背景を理解し、商品やサービス、見る人、使う場面とうまくかみ合ったときに、初めて広告の面白さにつながります。

 

楽曲から広がる新しい言葉

ネット上で使われている言葉の中には、若者同士の会話から自然に生まれたように見えて、実際には楽曲や動画など、はっきりとした元ネタを持つものもあります。企業が広告コピーとして使うのであれば、流行しているという事実だけでなく、その言葉がどこから広がったのかも確認しておきたいところです。

「すぎて滅」と「ほんまやで」

「○○すぎて滅」は、ダンスボーカルグループM!LKの楽曲「好きすぎて滅!」から広がった表現です。同曲は2025年に配信され、2026年2月には「爆裂愛してる」との両A面シングルとして発売されています。
「好きすぎて滅」という言い回しは、「かわいすぎて滅」「うれしすぎて滅」のように、前半を入れ替えて使いやすいところにも特徴があります。広告を作る側から見ても、「おいしすぎて滅」「安すぎて滅」といったコピーを簡単に思いつくでしょう。

一方、「ほんまやで☆なんでやねん☆しらんけど」は、純烈の酒井一圭さんがプロデュースするグループ「モナキ」のデビューシングルの曲名です。2026年4月8日に発売され、同年7月には別タイプも発売されています。
一つひとつは聞き慣れた関西弁ですが、「ほんまやで」「なんでやねん」「しらんけど」を続け、さらに「☆」を挟んだ形そのものが楽曲タイトルになっています。

こうした背景を知らず、「若者の間で流行している面白い言葉だから」と広告に持ち込むと、元になった作品を知っている人から見れば、単に流行語を使った広告とは違って見える可能性があります。
特に「○○すぎて滅」のように形を変えやすい言葉は、広告コピーにも取り入れやすいだけに注意が必要です。使いやすいことと、企業が自由に使ってよいことは同じではありません。

流行語と著作権の関係

では、楽曲から広がった言葉を広告で使えば、すぐに著作権の問題になるのでしょうか。
ここは単純には決められません。
文化庁は、ネーミングやキャッチフレーズ、流行語などについては、そもそも表現の幅に制約があり、誰が表現しても同じようになるものは創作性が認められないため、著作権では保護されないとしています。そのため、「曲から生まれた言葉だから広告には使えない」と一律に考えるのも適切ではありません。

一方で、歌詞や特徴的な表現まで含めて利用する場合や、元の作品を強く想起させる使い方をする場合には、著作権だけでなく商標など別の権利も含めて慎重に確認する必要があります。

企業広告では、個人がSNSで流行語を使う場合とは事情が違います。多くの人が使っているからといって、それだけで自由に使えると判断するのは避けたほうがよいでしょう。権利上問題がないとしても、元ネタへの理解が浅ければ広告としてスベる可能性は残ります。楽曲を知らずに使うのか、作品を知ったうえで商品や企画とのつながりを考えて使うのかによって、受け取る側から見える印象は変わってきます。

新しい言葉を広告に取り入れるときには、意味を調べるだけでは足りません。どこから生まれ、なぜ広がったのかまで知ることが、思わぬ失敗を避けるための一つの確認事項になります。

 

流行語だけでは伝わらない

流行している言葉には、すでに多くの人が知っているという強みがあります。広告に取り入れれば目に留まりやすくなり、SNSで話題にしてもらえるのではないかと考えるのも自然です。
しかし、流行語を入れただけで広告が面白くなるわけではありません。知らない人には意味が伝わらず、知っている人には使い方の違和感を見抜かれてしまうこともあります。流行に乗ることを先に考えるのではなく、広告として誰に何を伝えたいのかを考えることが大切です。

誰に向けて使う言葉なのかを考える

若者の間で流行している言葉だからといって、若者なら誰でも知っているとは限りません。
同じ10代でも、中学生と大学生では使っているSNSや触れているコンテンツが違います。学校や友人関係によっても流行は変わりますし、特定のアイドルや動画投稿者を知っている人だけに通じる言葉もあります。

さらに広告の場合、実際に商品を購入する人と、広告で関心を持ってほしい人が同じとは限りません。
中高生向けの商品でも購入するのは保護者という場合がありますし、若者向けのサービスでも、駅や電車、街中の広告であれば子どもから高齢者まで幅広い人の目に触れます。
そこで、一部の人にしか分からない流行語を大きく掲げてしまうと、本来伝えるべき内容まで伝わらなくなることがあります。反対に、見る人をある程度想定できるSNSキャンペーンなどであれば、流行語が共通の話題として働くこともあるでしょう。

大切なのは、「若者に届けたいから若者言葉を使う」という順番にしないことです。
誰に届けたい広告なのか。何を知ってもらいたいのか。その人にとって、この言葉を使う意味があるのか。そこまで考えた結果として流行語を選ぶのであれば、広告の表現として使う理由も見えてきます。

知ることと使いこなすことの違い

流行語を広告に使うとき、もう一つ考えておきたいのが企業との距離感です。「メロい」が流行っていると知ることは、検索すれば済むので難しくありません。しかし、意味を調べたからといって、その言葉を自然に使えるとは限りません。

なぜその言葉が面白がられているのか、どんな人がどんな場面で使っているのか、元になった作品や人物はいるのか。こうした背景を理解しないまま言葉だけを広告に取り入れると、「流行を知っている企業」というより「流行に乗ろうとしている企業」に見えてしまうことがあります。

タイミングも重要です。ネット上の流行は数週間や数か月で大きく変わります。企画した時点では話題の言葉でも、コピーを決め、デザインを作り、審査を経て広告が世の中に出るころには古く感じられるかもしれません。特に一定期間掲出し続ける交通広告や屋外広告では、契約期間の後半に「少し前に流行った言葉」になっている可能性もあります。

また、「スベる」だけなら笑って済ませられても、使い方によってはそれだけでは済みません。病気や事故、災害、死、身体的な特徴などに関係する話題に、勢いだけで流行語を組み合わせれば、企業にその意図がなくても不謹慎だと受け取られることがあります。

流行語を使うかどうかを判断するときに見るべきなのは、言葉の知名度だけではありません。誰が見るのか、何を伝えるのか、その言葉を使わなくても内容がきちんと伝わるのか。流行していることを出発点にするのではなく、伝えたい内容に合う言葉を探した結果そこに流行語があった、というくらいの距離感のほうが、無理のない広告コピーになりやすいでしょう。

 

まとめ

ネット上で広がる流行語には、短くて覚えやすく、思わず使ってみたくなるものがたくさんあります。広告コピーに取り入れれば、親しみやすさが生まれたり、普段とは違った印象を与えたりすることもあるでしょう。
一方で、流行しているという理由だけで使っても、広告が面白くなるとは限りません。意味や使われ方を理解していなければ違和感につながり、元になった楽曲や作品がある場合には権利関係の確認も必要です。商品や企業の雰囲気、見る人、掲出する媒体、タイミングによっても受け取られ方は変わります。

大切なのは、「この言葉が流行っているから使おう」と考えるのではなく、誰に何を伝えたいのかを先に考えることです。そのうえで言葉を使う理由があり、広告全体の雰囲気にも自然になじむのであれば、流行語は一つの表現方法として生かせます。

面白い広告とスベっている広告の境界線は、言葉そのものにあるわけではなく、誰が、誰に向けて、どんな場面で使うのかという組み合わせによって決まります。流行語は、使えば広告が新しく見える魔法の言葉ではありません。少し立ち止まって背景や相手との距離を考えることが、「無理している広告」にしないための近道になります。

若者向けの広告展開や、ターゲットに合った媒体選びをご検討の際は、お気軽にご相談ください。

 

 

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