子ども達の成長を見届け、芽生えたきもち
転職には2つの選択肢がある。ひとつは前職と同様の職に就くこと、そしてもうひとつは未知の職に挑戦してみることである。
平成28年にキョウエイアド名古屋支社に入社し、今では営業部で主任として活躍する坂本は後者を選び、生彩にみちた日々を過ごしている。
彼女の話をきくために訪れたキョウエイアド名古屋支社は、名古屋城の南、丸の内にある。このあたりは代表的なビジネス・官庁街だ。
「保育専門の短大に進学して幼稚園教諭二種免許と保育士資格を取得、卒業後は『幼保一体化保育※』を掲げる幼稚園で教諭の職に就き、3〜5歳児を受け持ちました」
※ 幼保一体化保育 本来所管が異なる幼稚園と保育所の運用を弾力的、一体的に図ること。
「好きなことをして遊ぶ時間、挨拶や季節の歌をうたう朝の会、設定保育と続きます。教材を用いたノリやハサミなどの道具を使う遊びの時間です。『この遊びをやってみたい』と子ども達に自発的におもってもらえるよう導きます。その後は一日を振り返る帰りの会となります」
「日案」と呼ばれる報告書や保育計画のレポートの作成にはかなりの時間をかけた。土曜は研修に参加、「教育者」として研鑽の日々を過ごした。
「子どもが好き、という気持ちだけでは務めることができない職であることを痛感しました。重度のアレルギーをもった子どもを受け持っていましたので、もしその子どもに症状が出たら、という心配も常にありました」
彼女が幼稚園の教諭を志望したのは、自分が幼稚園に通っていたときに抱いた『この先生のようになりたい』という気持ちからだった。
「子ども達に愛してもらい、その成長を見届けることができました。子どもから『先生みたいになりたいな!』と、かつての自分の気持ちと同じ言葉をかけてもらえたのが、在職中いちばんうれしかったことです」
教諭という職に対しての深い愛情を感じ取ることができる言葉である。
厳しい現実に直面した転職活動
仕事に没頭した教諭時代。もし他の職業に就いたらどんな毎日を送ることができるのだろう、と考えることもあった。
子ども達の3年間の成長を支え、無事に卒園を迎えたタイミングで職を転じることを決意。一般企業の事務職とテーマパークのキャスト職を目標に転職活動を始めた。
一般企業の事務職は、PCのスキルが採用の基準を満たせなかった。前職では手書きでの書類作成が必須で、PCソフトをつかった経験は少なかった。そして首都圏のテーマパークのキャスト職を目指し何度か上京。継続的に応募することも考えたが、現実的ではないと思いいたり断念した。
早期に働き始めたいという気持ちが強くなっていく中、キョウエイアドの営業職に応募。面接を経て採用決定の連絡が届いた。しかし採用を一度は辞退する。
「お恥ずかしい話ですが、面接の後、落ち着いて考えてみて、この仕事が本当に務まるのかが不安になったからです」
担当者に胸の内を正直に明かした。
「いちど会社の雰囲気をみてから決めるのはどうか、とお話いただきました。そこで『せっかく声をかけてくれたのだから』と考え直しました」
坂本がキョウエイアドに身を置くことを決心したのも、そうした細やかな気遣いが心に響いたからだろう。
働き始めて出会えた新鮮な日々
「交通広告の現場を実地に見学し、先輩方が電話でのロールプレイングに付き合ってくださいました。最初は気後れしていたのですが、自分を育ててくださろうとする気持ちが伝わってきて、真剣に取り組むようになりました」
前職との違いに困惑しながらも、前進していく日々。
「前職での癖が抜けず、名前を呼ばれると『ハイ』ではなく、つい『ハーイ』と返事をしてしまって…… 保育の世界とは違うことだらけでしたが、新鮮な毎日でした」
未知の出来事の連続が、気持ちを躍動させる糧となった。
様々な企業に電話をかける日々が始まった。
「ロールプレイングを何度も重ねたのに、思いもかけない質問に『お待ちください、確認いたします』の連続でした」
最初の契約が取れたのは、営業を始めてから1ヶ月後のこと。
「私を認めてくださったのだと思うと、うれしくて…… たどたどしい説明を、真摯な気持ちの表れと受け取ってくださったのだとおもいます」
一般企業を相手に営業をおこなう今も、子ども達に相対していた時と等しい誠実さをもって接している。
「お客さまが『きもちよく仕事を進めることができてありがとう』と言ってくださる時があります。今のお仕事でも前職同様、感謝されることがいちばんうれしいですね」
取材に同行した上司の坂本に対する人物評はこうだ。 「彼女は、他の社員がうまく説明できない商品の特長を、熱心にクライアントに伝えて契約に結びつけ、範となってくれます。今日も締め切りまで時間がない商品の契約を決めてきてくれました。本当に頼りになります」
人としての成長を見守ってくれる職場
入社して3年を経た今、坂本はキョウエイアドに対して「一人ひとりを大切にしてくれる会社」という印象をもっている。
それは入社時に先輩からかけられた次の言葉に要約されている。
「君を指導するのは、ビジネスパーソンとして成長してもらいたいのは当たり前だけど、むしろプライベートでも、まわりの皆に尊敬される人になって欲しいから。だから真剣に仕事を教える」
坂本が教諭時代に子ども達に注いだ視線の温かさと同質であり、会社も人と人が接する場である限り、愛情をもって成長を促す必要があることには変わりがない。
自分のために時間をつかえることのありがたみ
恵まれた職場の人間関係にくわえて、坂本のモチベーションを支えているのは、オン・オフのはっきりとした就業環境だ。
「17時50分の定時で退勤することがほとんどです。その後は自分の時間を満喫しています。帰りは名古屋駅まで同僚とおしゃべりしながら歩くことも多く楽しいひとときです。その後は昨秋から始めたフィールサイクルに通うことが多いです」
フィールサイクルとは、照明を暗く落としたスタジオでエアロバイクを漕ぎながら音楽に合わせて体を動かす、近年人気のエクササイズだ。
「ダンスなど音楽とともに身体を動かすことがもともと好きで、暗いスタジオの中で自分の世界に没頭して運動できることに魅せられました。有給をつかった旅行では京都などを訪れました。フラワーアレンジメントにも興味があります」
彼女は今、自分が望むならどんなことでもチャレンジできると感じている。
「以前は早くに結婚して家庭に入りたいと思っていました。でも今は結婚しても、同じように働きつづけたいと考えています」
キョウエイアドでは現在時差出勤の実施を検討している。「働きがいの向上」や「自己実現」をワークライフバランスの側面から支援するものだ。この制度が実現した場合、坂本のようにオフの時間を有意義に活用している社員にとってはいっそうのモチベーションの向上に繋がるだろう。
今でも前職の同僚と食事を楽しむ。同僚からは「楽しそうに毎日を過ごしているように見えるよ」と言われる。もし彼女たちから転職について相談を受けたらどう返事しますか、と問いかけてみた。
「一つの仕事を突き詰めている彼女たちを改めて尊敬しています。でも、もしそうした相談があったら『違う世界をみてみたらいいよ!』と答えますね」
最後のカットを撮影した名古屋屈指の繁華街である栄の一角は、この季節にしては暖かさに空気がゆるみ、日だまりは穏やかさに満ちていた。
(了)